02
「……入江の、ちっちゃいころのこと、しりたいわ」
「どうしたんだい?急に」
「びゃくらん…きょうもしろいわ」
まいにちまいにち、もふもふマシマロたべて、あきないのかしら?
「飽きないよ。ちなみに、正チャンの故郷の大福もお饅頭も羊羹も大好きだよ♪」
「どーして、ブルーベルがかんがえてること、わかるのよーーーっ!!あと、どうしてあまいものばっかりたべてるのに、ふとんないのよ!!」
「あ、美形は太んないの」
「なにその、へんなほうそくっ!」
でも、もんだいは、そこじゃないのよ。
「入江ばっかり、ちっちゃいブルーベルをしってるんだもの。ブルーベルはちっちゃい入江をしらないわ!これって、なんだかズルイとおもうの!!」
入江は、ブルーベルとあったときに中学生だったらしくって、「僕も子どもだよ」っていったけど。いまもそういうけど。
中学生も高校生も、おとなだわ。
「つまり、ちっちゃい正チャンと会いたいんだね」
「うん…」
ブルーベルは、思い出した。白木蓮の花の下で出会った男の子。
小さいのに、大人みたいだった。
それは、白木蓮の夢に合わせて、小さいのは見かけだけで、中身は大人だったから…?
でも、このことは、ふたりだけの、ひみつ…
「じゃ、呼んでみたら?」
「にゅ?」
白蘭は、どこからか取り出した大福をご機嫌に食べながら言った。
「ちいさい正チャンを、呼んでみたら?出て来てくれたらオッケー。来てくれなかったら、ごめんね、ってこと」
「……びゃくらん。だいふくにマシマロココアはあわないとおもうわ……」
でも、結局ブルーベルは、白蘭の案に乗ってみることにした。
森に入って、いつもと違う風に呼びかけた。
「ちっちゃい入江ーーーっ!」
これでいいのかなあと思いながら、ブルーベルは呼んだ。
「ちっちゃい入江!ブルーベルにあいたいのなら、でてきてよ!!」
しーん…とする森。
時々、小鳥が鳴く声が聞こえる。
「やっぱりダメかな。…にゅ!?」
ブルーベルは、ぽてん、とどこかの建物の廊下らしき場所に座り込んでいた。
「びょういん…?」
というのは、慌ただしく看護師さんが通り過ぎるからだ。
しかし、ブルーベルはどくんどくんと心臓が重苦しく鳴った。
「ひょっとして…コレって、ホラーなかんじ…?」
というのは、女の人らしき呻き声が聞こえたからだ。
「にゅにゅにゅにゅーーーっ!!!たすけて入江ーーー!!!」
ブルーベルは、叫んではっとした。
(入江…たすけに、きてくれない……)
名前を呼んだら、いつだって助けに来てくれると、そう約束してくれたのに。
「うわあああん!!入江のうそつ」
……き?と、そこでブルーベルの叫びは止まった。
「分娩室…」
ブルーベルは呟いた。
そして、アレ?と思った。
「ブルーベル…漢字読めちゃったわ…」
読めるばかりか、意味まで分かるのだ。
そして、「ほえぇぇぇ…」と、弱々しい声が聞こえた。
ブルーベルは、分娩室のドアを開けようとして、
「……すりぬけちゃった?」
赤ちゃんをとりあげたらしい助産師さんが、「おかあさん」に笑いかける。
「元気な男の子ですよ」
ブルーベルは安心した。泣き声が「ほえぇぇぇ」だったものだから、元気のない子だと思ってしまったのだ。
よくわかんないけど、「おぎゃー!」じゃない子もいて、きっとみんな違うのね。
それに、産まれたばっかりの赤ちゃんのこと、サルとか半魚人とかいうやつ、滅べばいいわ。
だってだって、すごくちっちゃくって、一所懸命じたばたしてて、すごく可愛い!
…って、アレ?ひょっとして…
この赤ちゃんが入江!?
おふろに入れてもらって、ザ・ジャパニーズ・KIMONOみたいな服を着せて貰って、赤ちゃんサイズの…透明のベッドに寝かせて貰って。
「入江 とも子」ってカードが入ってる。
誰コレ?
……あ、そっか。
まだ入江のファーストネームが決まってないから、お母さんの名前のカードなのね。
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