02

ほかは見上げるような大木だけれども、ブルーベルと男の子が見ている木だけは、花の様子がわかる程度の高さだ。

「いいにおい」
「うん。桜ほど大騒ぎされる花じゃないんだけど、日本の庭にはよく植えられている人気のある花だよ」

おおぶりの、白いマグノリアの花。
とても綺麗で、辺りいっぱいにすてきな香りがする。

「日当たりや気温にも左右されるけど、桜よりも一足早く、春を告げてくれる花なんだ。…僕は、好きだよ」

小さな男の子の緑の瞳は優しくて、決して名乗りはしないのに、その子は確かに正一で、正一が言った「好き」は、花と共に白蘭を想う言葉のような気がした。
……ブルーベルは、そのことが、少し寂しいと思った。

違う…きっとこれは、この男の子よりも少しお姉さんのブルーベルがやっと知ることが出来た、「せつない」というきもち。

今、この小さい男の子の「好き」はブルーベルじゃなくて、花と白蘭だけに向けられたものだから。

「この花の命は、短いんだ」
「え…?」
「ああ、花としては、特別にそうでもないかな。桜も似たようなものだし、バラはもっと短いような気もするし」

男の子は、言った。
「だいたい一週間か、それよりちょっと短いかな……」

ブルーベルは気付いた。
男の子と出会ったとき、花は少し閉じ気味だったのだと。
なのに、ふわりとその花は開いてゆく。

「散っちゃうの?」
「散らないよ」

花は、綺麗に咲いて、また閉じる。

「この花はね、光を浴びると開いて、夜になると閉じる、そんな性質を持っているんだ」

そして、その花はまた開き、香って、閉じてゆく。
だが、ブルーベルは気付いた。

「だんだん…はながおおきくひらくようになって…あまりちいさくもどれくなっていくのって、きのせい…?」
「気の所為じゃないよ」

開く、閉じる、それを6,7回繰り返しただろうか。

大きく開いたその花は、一度にバラリと散った。

「きゃ…!」

ふたりで見ていた木だけではない。
辺り一面に咲いていた白木蓮の花びらも、一気に散ったのだ。
一斉に風に舞う、白が少し茶色を帯びた、枯れた花びら。

くすりと、男の子は笑った。

「びっくりした?…白木蓮の花びらはね、こうして一気に花びらを落とすんだよ」

……どうして、笑っているの。

「入江…!どうしてわらうの!」

おはなが、ちってしまったのに。
おはなが、しんでしまったのに。

わからない。わからないわ。

「わらわないでよ、入江…っ!」

名を呼んだのに、ブルーベルは耳を塞いだ。





「…大丈夫だよ」

耳を塞いだはずなのに、優しく男の子の声が聞こえたような気がした。

「入江…?」

ブルーベルは、もう一度顔を上げた。
正一の名を呼んだのに、男の子は答えなかった。
ただ、ブルーベルには不思議だった。その男の子の背が少し伸びた…成長したような気がしたのだ。

「大丈夫だよ」

男の子は、もう一度繰り返した。

「桜の花と同じだよ。花吹雪になって散っていって、でもそれは、次の春にも会えるよっていう約束で、桜よりも少し早く咲く白木蓮もそうなんだよ」
「…………」
「木の花は、こうして同じ木に咲く。種や球根を残すものもある。地面に潜っているけど、根っこを残していて、春になったら芽を出すものもある」
「…………」

花は、咲き続けてくれるんだよ。

そう、男の子は笑った。

そして、その男の子が木の幹に触れると、春が来たように、再び木が芽吹いた。
白木蓮の、綺麗な花が咲く。そして散る。また咲く……
ブルーベルと男の子が見上げる先で、何度もそれが繰り返される。

そんな、不思議な光景を、ブルーベルは男の子の隣で目を見張って見ていた。


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