02

ブルーベルは叫んだ。

「つかまえちゃうくらい、しっかり起きてたじゃないのっ!」
「そりゃあ、肩を掴まれて揺すられたら目も覚めるよ」
「普通に目を開ければいいのに、どうしてつかまえるのっ!」
「つかまえたかったからだよ」
「返事になってなぁいっ!!」
「なっているよ」

正一が、ブルーベルを見つめて微笑した。

「僕が、君を、つかまえたかったからだよ」

ブルーベルが、ボンと真っ赤になった。
「つかまえなくたって…ブルーベルの方が、入江を捜していたのよ」
「うん、ごめんね」

正一の唇が、そっとブルーベルの唇に触れた。

「ちょっ…!こういうことは、誰も見ていないところにしてよっ!!」
「誰もいないよ」

ブルーベルは、はっと気が付いた。
この野原は、とても広いけれども、休日は親子連れやカップルがあちこちで遊んだりくつろいだりしている、そんな場所であるはずなのに。

正一と一緒にいると、時折こうして誰もいない場所に辿り付く。
幼い頃からずっとそうで、ブルーベルは不思議だと思っていたのだけれども、理由はわからないままだ。

幼い頃は、どうして、と口にしたこともあるのだけれども、正一は……

(どうしてだろうね)

(ブルーベルがきいているのっ!)

(……ごめんね)

困ったように笑って、それ以上は答えようとしなかった。

だから、訊いてはならないのだと思うようになった。
これ以上訊いてしまったら、正一は姿を消したまま、二度と会いに来てくれなくなる、そんな気がして。

「一所懸命に名前を呼んでくれるのは、いつも君の方だったね」
「え…?」

そう言われてみればそうだった、とブルーベルは思った。

(入江…!)

(入江、どこ…?)

一所懸命に。時には、必死にすらなって。

「にゅーっ!ずるいわっ!!」
「……そうだね」
「ちょっとっ!開き直るの?」
「……ごめんね」

ブルーベルは、黙ってしまった。
正一が、困ったように、ごめんねと言ったなら、それはこれ以上は言えない、或いは言わない、という意味なのだから。

でも、ブルーベルは悲しくなって、だから繰り返した。

「ずるいわ」
「…うん」
「ずるいわ」
「僕は…」

正一は、そっとブルーベルを抱き寄せた。

「僕は、きみを、あいしているよ」

抱き寄せられたまま、ブルーベルはしばらくじっとしていた。
このぬくもりを感じたまま、腕に閉じ込められたまま、時間が止まってしまえばいいのにと、ふと思った。

「何だか…」

ブルーベルは、ぽつりと呟いた。

「世界に…ブルーベルと入江しか、いないみたいだわ」

今だけじゃない。
ふたりきりの場所に入り込んでしまったときには、いつもそう思っていた。





「…もし、本当にそうだったら、どうする?」
「え…?」

正一が、立ち上がった。
地面に座ったままのブルーベルに、手を差し出した。

「行こうか」

ブルーベルは、とっさにその手を取ることが出来なかった。
いつもなら、自然に手を繋いで立ち上がるだけなのに。

「どこに…いくの……」

正一は、答えなかった。
ただ、穏やかに微笑して、ブルーベルに手を差し伸べるだけで。

「教えて…。どこに、いくの…?」

「…ブルーベル」

正一が、屈んで手を差し出したけれども、ブルーベルは無意識に後ずさっていた。

ブルーベルは、そんな自分に、愕然とした。

今……ブルーベルは…

(はじめて、入江を、こわいと、思ったのよ)


正一が、ほろ苦く笑って、手を引いた。

「僕が、怖い?」

ブルーベルの、心を読むように。

「さっき、僕は君の名前を呼んだよ。……でも、僕が君の名前を呼んだら、君は僕の傍にいてくれるの?…何度も呼べば、君は僕に付いてきてくれるの?」
「…………」
「…ごめんね」

正一は、ブルーベルに背を向けた。


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