02

「しっかりして下さい。目を開けて…!」

女の子が一所懸命声をかけたら、王子様は目を開けた。
……夜の海ではよくわからなかったわ。緑の瞳をしていたのね。

「此処に居たのは、僕だけですか?」
「はい…。それが何か?」
「……いいえ」

王子様は、きっと一緒に船に乗っていた人達のことを思ったんだわ。とても悲しそうにしたけれど、女の子に微笑みかけた。

「助けてくれて、ありがとうございます」

王子様のことばに、ブルーベルはとても悲しくなった。
王子様を助けてあげたのは、ブルーベルよ。その女の子は、王子様を見つけてあげただけよ。

それなのに、王子様は、あの女の子に助けられたと思ってしまったんだわ。

かなしい、かなしい、かなしい。
ブルーベルは、あの王子様のことがすきなのに、王子様はブルーベルを知らないのよ。

「え…?」

ブルーベルは、ぽつんとつぶやいてた。

「ブルーベルは、あの王子様が、すきなの…?」



せっかく、15歳のお誕生日だったのに。
ブルーベルは、しょんぼりして海のお城に帰ったわ。

みんな心配してくれたけど、ブルーベルはお部屋に閉じ篭もったまま。
だって、打ち明けて、どうなるというの?みんな、人魚と人間は別の世界の生き物なんだから、仕方がないって、それだけですませてしまうのよ。

「ブルーベル、お話を聞かせて頂戴」

…おばあさまだわ。

おばあさまは、とても長生きをしているひと。多分、200歳以上生きてるわ。
だったら、色々な事を知っていて、ブルーベルにいい事を教えてくれるかも知れない。

おばあさまは、「仕方がない」って言わなかった。
その代わりに、人魚と人間の違いを教えてくれたの。

「人魚は、300年の寿命を持っている。でも、人間はとても長く生きても100年。大抵は、それよりももっと早く死ぬ。とても儚い生き物なんだよ」
「ブルーベルは、儚くてもいいわ」
「確かに、人間は儚い。でも、永遠の魂を持っている。早く死んでしまうが、空に上って星になれる」

ブルーベルは、綺麗な夜空を思い出した。
星は、とても綺麗だったわ。

「じゃあ、人魚はどうなの?」
「人魚には永遠の魂はない。寿命が来たら、海の泡になって消えてしまう。どちらが幸福な人生かはわからないけれども、人間と人魚の命は、決して重ならないのだよ」
「ブルーベルは、300年の命は、いらないわ。永遠の魂もいらないわ。お星様になれなくてもいいわ。ただ、王子様と会いたいだけなのよ」

ブルーベルが泣いてしまったら、おばあさまは「かわいそうに」って言って、ブルーベルの髪を撫でてくれた。
……ああ。こんなに長く生きたおばあさまでも、ブルーベルが王子様に会いに行く方法を、知らないのよ。



ブルーベルは、泣いて、泣いて、泣いて…


でも、思い出したの。

きっとひとりだけ、「仕方がない」とも「かわいそうに」とも言わないひとがいるわ。

それは、海の底の底。
暗い洞窟の中に住む魔女。

何でも、願い事を叶えてくれるんですって。

でも、その怖ろしい魔女は、願いを叶えてくれる代わりに、そのひとのとても大切なものを、取り上げてしまうって言われているの。

ブルーベルの、とても大切なものって、なに…?
わからないわ。

でも、ブルーベルは、あの王子様に会うためなら、何でもしたいのよ。

ブルーベルは、おばあさまに言ったことと、同じ事を言ったの。
王子様に会いたいの、って。

魔女は、言ったの。
「人魚が人間に会うことはできないよ。だから、お前が人魚ではなく人間にならなければならない」

胸が、踊ったわ。そんなすてきな方法があるの?
「いったん人間になったら、二度と人魚にはもどれないよ。そして、王子がほかの女と結婚したら、夜明けと共にその次の朝、お前の心臓はこなごなになって、元の人魚のように、海の泡になり死んでしまうよ。…それでも、いいのかい?」
「…いいわ」

それで、いいのよ。
だって、ブルーベルは、王子様がほかの女のひとと幸せになるのを見るくらいなら、海の泡になって死んでしまった方が、いいのだもの。

「どうしても人間になりたいのなら、代わりにお前の美しい声をもらうよ。そうすれば、お前の尻尾がとれて、二本の美しい足になるだろう。それでも、お前が手に入れる足は、一歩ごとに鋭いナイフの上を歩いているような痛みが走るよ」

ブルーベルは、怖かったわ。
一歩歩く度に、ナイフの上を歩くような痛みって、どれほど苦しいの?

でも、ブルーベルは……

「いいわ。ブルーベルの声を置いて行くわ。その代わりに、人間の足をちょうだい」

そして、ブルーベルは二本の足をもらったの。
今まで、一番綺麗な生き物は人魚だと思っていたけれど、人間の足はとても綺麗。

でも、ブルーベルは苦しかった。
人魚でなくなってしまったブルーベルは、もう海の中で自由に泳ぐことはできないのよ。

息ができなくて、もがきながら水の上にのぼっていった。

くるしい。くるしい。くるしい。
たすけて。だれか、たすけて……!


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