おとなの事情その2
桔梗が自室に戻ると、ベッドの上にバスローブの白蘭が、我が物顔の白猫のように寝そべっていた。
「何をしていらっしゃるのです?」
「添い寝してよー添い寝♪」
「何をブルーベルみたいなことを言っているのですか」
「何だかさあ、人肌が恋しくなっちゃう時ってない?」
「ありません。私は大人なので」
「僕は永遠の少年なんだよ♪」
「年齢相応に成長して下さい」
「添い寝くらいいーじゃない。僕たち家族みたいなもんでしょ?」
「つまり、私が美麗なお父さんで、白蘭様が華麗なお母さんで、ザクロがグレた長男で、デイジーが内気な次男でブルーベルが嫁入り前の末っ子ですか」
「アレ?僕、ブルーベルのイケメンお兄ちゃんのポジションなんだけど?」
「私も、ブルーベルの美麗なお兄さんか、妥協してもお父さんレベルです」
「桔梗チャンはさー、世話好きじゃない?その辺りお母さんっぽくない?」
「っぽくありません。私はロン毛にメイクでも男らしいので。そのように仰るのならば、先日のキスは引き分けましたから決着を付けましょう」
「あ、いーねーいーねー♪そういうゲーム?僕、絶対勝っちゃうもんね」
「私も譲りません。お父さんの座をかけて」
「アレ?僕お兄ちゃんでいいんだけど」
「よくありません。お父さんとお兄さん、もしくはお兄さん同士でベッドインするのは正しい風紀ではありません」
「桔梗チャンどこの風紀委員?僕、大人っぽくザ・ジャパニーズ・SUEZENでもいーんだけど。桔梗チャンを陥落させるかの勝負でいーじゃない?」
「そんな乱れたゲームはしません。私と白蘭サンと、どっちがお父さんかお母さんかハッキリさせれば済むことです」
「ちょ?桔梗チャンまじ?マジ??もうゲーム開始なの!?」
「マジです。開始です。ゆっくりしても急にしても同じでしょう」
「ぎゃーっ!桔梗が狼ーーーっ!!」
「お父さんです。夫婦内DVはよくありませんので、白蘭様がおとなしくお母さんになって下さい」
「にゅ?どーしてびゃくらんと桔梗はふたりしてぬぎぬぎなの?」
部屋に入ってきたのは、なかなか眠れなかったので、添い寝希望のブルーベルが枕持参。
白蘭がアハハと笑い、ここは桔梗がハハンと流し目で決めた。
「大人はベッドの上で勝負です。ちなみに、男女で勝負の場合は、コウノトリが赤ちゃんを運んで来ることがあります」
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「…って桔梗が言ってたんだけど、ホント?」
「…………」
正一は、かろうじて明後日の方向を向いて缶コーヒーを噴いた。
「入江、だいじょうぶ?」
「何とか……」
白蘭サン!桔梗!子どもに何を見せてるんだよ!!
「ねー入江」
「な…何かな…」
ブルーベルは、ワクワクしながら正一を見つめた。
「入江もブルーベルとベッドでしょうぶしようよ!」
「…………」
もう、噴射するコーヒーが残っていない。
「ブルーベル、ぬぎぬぎはとくいだもん!」
「…………」
正一は、顔からザーッと血が引く心地がした。
そう言えば、未来のブルーベルは何かと脱ぎたがりの少女だった!!
「入江ー、おかお、あおくするかあかくするか、どっちー?」
「い…いや、中間がいいんだけど」
「むらさき?」
「そうじゃなくて!…いや、それはどうでもいい、脱がなくていいから!!まだかなり早いから!!!」
「にゅ?」
ブルーベルは納得した。
「そっか。しょうぶはおとなになってからだもんね」
「……そうだね……」
何だかもう、そういう事にしておくしかないと思う……
ブルーベルは、とても可愛らしく無邪気に笑った。
「入江!おとなになったら、コウノトリがはこんでくるあかちゃんをかけて、ブルーベルとしょうぶだよ!!」
「…………」
正一は、遠い目をして呟いた。
「そうだね……」
コウノトリでも勝負でもないということを、僕はいつ教えればいいんだろうか……
〜Fin.〜
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