02

「ブルーベルはね、きいろいおはながすき」

森の中を手を繋いで歩きながら、ブルーベルがそう言ったので、正一は不思議に思った。

「青い花じゃないのかい?」
「あおいはなはすきよ。でも、きいろいおはなもすきなの」

ブルーベルは、正一を見上げて笑った。
「だって、入江っぽいもん」
「ああ…僕が晴属性だから?」
「うん」

ブルーベルは覚えている。
森や公園で走っていて転んでしまって、すりむいたひざ小僧を、正一が治してくれた。

「入江のは、ほのおっていうより、ひかりみたい。ふわって、やさしいの」

正一は、自分は晴属性だけれども、例えば笹川了平やルッスーリアのような戦闘家のような力は全く無く、植物の成長を促したり、ブルーベルにしたように傷を癒したりという働きに限られるのだと言った。
でも、ブルーベルはそれでいいと思うのだ。その方が、正一らしいと思う。

「黄色の花って言っても、沢山あるよ?僕は、間違っても黄色いバラじゃないし。チューリップでも可愛すぎるし」

それでも入江っぽい…と言われても困る、と正一は思った。
もしそうなら、自分は男らしさが足りないと思う。

「ううん。もっと、ふわっとしたかんじのおはな。たんぽぽとかミモザとか」

それも微妙だ…と正一は思った。
「……可愛すぎない?」
「やさしいかんじだよ。ふわふわ」

僕は、ふわふわなのか……と、正一は小さく溜め息をついた。
それとも、かなり年下の恋人のコメントなのだから、可愛いもふわふわも、褒め言葉と受け取って真に受けない方がいいのだろうか。ブルーベルの年頃なら、何でも可愛いものが好きなのだろうから。

「まあ…僕はあまり格好いいタイプじゃないから、タンポポでも仕方がないかもしれないけどね」
「そんなことないよ!入江はとってもカッコいいもん!!」
「…………」

力説してしまって、ブルーベルは真っ赤になった。

「え…えっと、ホントにカッコいいひとはやさしいの!それに、カッコよくないおうじさまも、いないのっ!」
「……そう」
「にゅにゅーーーっ!いま、ブルーベルしぬきでいってあげたのにっ!入江はんのううすっ!」
「ううん、嬉しいよ」

正一が、ブルーベルを見下ろして柔らかく笑ったので、ブルーベルはほっぺたがあつくなる…と思った。

そんなブルーベルが、正一には微笑ましく、可愛かった。
死ぬ気で、というくらい、勇気を振り絞って伝えてくれたのだろうから。

「王子様が格好いいのなら、ブルーベルの言う“格好いい”は、“好き”と同じ意味なんだね」
「うわあああん!!入江、じしんまんまんでズバリいわないでよーーーっ!!!」

ずばり当たっていたのかと、正一はクスクス笑った。
「にゅーっ!なんで、わらうのっ!!」
「嬉しいからだよ」

……やっぱり、ほっぺた、あつくなる。

「でも、ミモザはブルーベルに似合うよ。あの花冠みたいに」
「……うん」

ミモザのひに、入江にかぶせてもらったはなかんむり。あのときは、おはなの、おひめさまみたいな、きもちだったの。

「ブルーベルが好きなのは、こんな感じなのかな」
「え…?」

ブルーベルは、眩しい光に、一瞬目が眩んで、正一にしがみついた。

いつの間にか、そこには森の木々はなかった。
代わりに、ふたりきりの青空の下に一面に広がっているのは…

「なのはな…?」
「うん。優しい黄色い花って、こんな感じかなと思って」

広大な、菜の花畑。見渡す限りの鮮やかな黄色。
鮮やかなのに、どこか優しい色合いと、繊細な薄い花びら。

「わぁ…!いっぱい、きれい」
「たくさんの種から油を取るから広いんだよ」
「にゅ?かわいそうだよそれ!せっかくきれいなおはながさくのに」
「栽培する為の種は残しておくんじゃないかな。あと、花があまり咲かないうちに収穫して、野菜として食べたりもするし」
「にゅにゅーーーっ!それもっとかわいそうだよ!ダメーーーっ!!」
「そんなこと言っても、畑で育てられている野菜は、ほぼ食用だよ?」
「ブルーベル、やさいはたべないもん!!」
「つまり偏食なんだね…」

正一はくすりと笑った。
「収穫されたのに食べてもらえない野菜の方が、ずっと可哀想だと思うよ?」
「にゅ…」

ブルーベルがしゅんとしてしまったので、正一はこの話はもうお終いにしようと思った。
今日は、花を見に来たのだから。

「菜の花は好き?」
「うん。かわいい。入江っぽい」
「…………」

……やっぱり、可愛いとセットにされると微妙。

ブルーベルの小さな手が、正一の手からするりと抜けた。
駆け出す少女の帽子の水色のリボンが揺れる。

「入江、こっち!」

嬉しそうに、ブルーベルが手を振る。
正一は笑い返して、ゆっくり歩いてその後を追いかけた。


[ 42/101 ]

[*prev] [next#]
[図書室59]
[しおりを挟む]


×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -