02

「やあ、ブルーベル」

はっとブルーベルは我に返った。
いつの間にか、約束の時間から20分と少し。そんなに長い間、物思いに沈んでいたのだろうか。

「待たせちゃったかな」
眼鏡の向こうの、緑の瞳が優しく微笑む。

「そ…そそそそんなこと、ないよ」

どうして、そ、がそんなに多いのだろうかと正一は小首を傾げたけれども、ブルーベルが隠したいことならとそのままにして置いた。

「不思議の国のアリスみたいだね」

ブルーベルは可愛らしい頬を赤くした。
今日の装いは、ブルーのワンピースに白のエプロンドレスを重ね着。ディズニーのアリスよりもずっとフリルやレースが多いのは、桔梗の趣味なのかブルーベルの選択なのか。しかし、シューズはワンバックルのオーソドックスなものなので、むやみに飾り立てた印象はなく、ブルーベルによく似合っている。

「なかなか良い褒め言葉ですね、入江正一。コスプレにならずに着こなしてしまうのが、私のブルーベルクウォリティです」
「誰が誰のブルーベルですか」

ハハン、と桔梗は笑った。
「当然に、白蘭様と私のものに決まっていますよ。それ以外の答えがありますか?」
「わかりました。今のところは覚えて置きます。今だけですが」

ブルーベルは、ハラハラしながらふたりのやり取りを見守っていた。
…桔梗も入江も、えがおなのになんだかこわいよ!!

「行こうか、ブルーベル」
「……うん」

こうして、手を差し出されて、正一に自分の手を預けるとき、いつもドキドキするのだとブルーベルは思った。
純白のドレスを着ていなくても、お姫様のよう。
例え行き先が、いつもと同じ公園でも。

「今日のおひるはね、サンドイッチなんだよ!」
「また、ブルーベルが桔梗に教えてもらって作ったのかい?」
「うん。そう。でもね、まえよりもブルーベルはもっとがんばれたんだよ」

確かに、揚げ物の多いチキンバスケットよりも、パンをカットしてバターを塗って、様々な具を挟んで…というサンドイッチのほうが、ブルーベルにはやりやすかったのだろう。

「桔梗って、いつも料理係なの?」
「違うよ。いつもは料理人が作るの。桔梗はね、“実は私は何でも出来るのですが、やらせる方が好きなのですハハン”とか言ってて、ブルーベルのお手伝いの時しかしないのよ」
「…………………………………」

…万能なのか。そんな雰囲気だ。

「僕は…ダメだな」
正一は、大樹に背を任せながら呟いた。

「ダメって何がダメ?」
「ん…。白蘭サンの親友としても、副官としても、僕は中途半端だったから」

偽るのが苦しいくらい、親友と思い愛していた。
副官としては有能であり、そう見せなければならなかったけれども、それは裏切りを完璧に遂行する為に必要なことだった。

マシマロをはじめとする甘味ばっかり食べたがる白蘭の不摂生を叱りながらも、結局は食堂の栄養士に丸投げすることしか出来なかったのだし、そのようにお節介をやいたくせに、さいごはミルフィオーレを脱会し背を向けた。

「僕は…何も出来なかったし、今もそれは変わらないんだよ」
「どうしてそんなかなしいこというの?」

ブルーベルは、正一については分からないことのほうが多いと思う。でも、分からないことも含めて、正一が好きで、これからもそうだと思うのだ。
だから、分からなくても分からないなりに、間違いだと思うことは間違いなのだと、精一杯伝えたい。

「入江は、びゃくらんのしんゆうだよ!入江は、いっぱいひどいことをされても、びゃくらんをゆるせるし、すきだっておもえるんでしょう?それは、“なにもできない”なんてことないんだよ!びゃくらんだって、入江にひどいことしちゃったの、こうかいしてるんだよ。入江のこと、すきなまんまだよ。桔梗だって、びゃくらんのそばにいることはできるけど、入江みたいなしんゆうにはなれないし、なろうともおもわないって、いってたよ。……だから、そんなこと、いわないで!」

正一は、驚いた。
ブルーベルが、そんなにも必死に訴えたことに。
……そのつぶらな青い瞳が、涙をこぼしたことに。

「……ごめんね、ブルーベル。もう言わないよ」

抱き寄せれば。その小さなぬくもりが愛おしく。

(……君は、いつまで、小さな女の子のままなのかな)

「入江…、今、何か言った?」
「ん…、サンドイッチ、美味しいね」

正一が笑いかけると、ブルーベルも笑った。


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