02

「入江ーーーっ!ザクロと桔梗がいじめるーーー!!」

べそをかきながら走って来たブルーベルを受け止めて、正一は何のことだろうと思った。
ザクロはともかく(いじめるというよりからかう)、桔梗は(白蘭を朝叩き起こしても)ブルーベルやデイジーという子ども達には優しいはずだ。

「どうしたんだい?もしブルーベルが僕に話を聞いて欲しいのなら、聞いてあげるよ」

入江は、無理に聞き出そうとしない……から、ブルーベルは言ってみようかと思った。
でも、ザクロや桔梗と同じ返事だとしたら、もっと傷付いて泣いてしまう気がする。

「入江…みずのいろは、なにいろ?」

どうやら、この問いに関するやり取りが、ブルーベルにとっては一大事件だったらしい…ことは、正一も分かった。

「……何を以て、色があると言うのか、そこを突き詰めると、科学を通り越して哲学の世界になってしまうような気もするんだけど」
「うわあああん!!入江がうちゅうごをしゃべったーーー!!!」

……宇宙語。

正一は困ったけれども、無難な答えを探した。
「日常生活や、実験室レベルでは、ほぼ無色透明……色はない、でいいんだと思うんだけど。多分、学校でもそう教えるような気がするし」
「…………」

ブルーベルは、正一を見上げると、可愛い顔をくしゃくしゃにして一層泣いて、背伸びをして正一の胸をぽかぽか小さな拳で叩こうとした。

「入江のばかーーー!!!」
「えっと…僕は、何か傷付けるようなことを言ったかい?」
「ばかばかばかばかーーーっ!ちがうもんちがうもんちがうもんっ!!!みずのいろは、あおだもん!ぜったいあお!!なんだからーーーっ!!!」
「…………」

そういう事か、と正一は理解した。
雨属性で青い炎を持ち、泳ぐことが大好きなブルーベルにとっては、水も青色もどちらも思い入れが強く、譲りたくないものなのだ。

「僕は、ちゃんと日常生活や実験室レベルでは、…って言ったはずだよ。本当はね、ブルーベルの言う通りなんだ。水は、とても薄い色だけど、青い色をしているんだよ」
「…………」

ブルーベルは、ぽかぽかするのを止めて、正一を見上げた。

「……あお?」
「そうだよ。青い色」
「じゃー、コップのみずが、なんのいろもないのは、どーして?」
「さっきも言ったけど、とてもとても薄い青で、コップや試験管では見えないからだよ」

正一は、未来では科学者だった。
だから、嘘をついてはいないと思う…とブルーベルは思ったけれども、しょんぼりとした。
大きな湖や海は、とても綺麗な青なのに。

「うみは…うすいあおじゃないよ」
「それは、深いからだよ。薄い青のセロファン紙でも、重ねていけば深い青になってゆく。波打ち際じゃ色はわからなくても、遠くを見たり、船に乗ったりするときの海は青いだろう?だから、“海は青い”でいいんだよ」
「…………」

ブルーベルは、空を見上げた。
「ザクロが、うみがあおいのは、そらのいろがうつるからだっていったの。それはウソなの?」
「それも嘘じゃないよ。海が青い理由はいくつかあって、空を反射するからってうのもそのひとつなんだ。曇りの日よりも、晴れた日の方が海は鮮やかな青になるだろう?」
「……うん」

まだ、ブルーベルは元気を取り戻してくれない。
ブルーベルは、きっとストレートに「水は青い」という答えが欲しかったのだろうと、正一はことばを探した。

「ブルーベル。実はね、水とは違って、空は青く見えるけど、青い訳じゃないんだよ」
「え?」

ブルーベルが、きょとんとした。
「どうして?そらはあおいよ」

空の青は、水の青よりも当たり前のことだと思うのだ。

「太陽の光はね、だいたい白いだろう?蛍光灯もね。でも、太陽の光は、本当は人間の目に見える範囲では、大雑把に7色に分類されるんだ。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫」
「…にゅ?アルコバレーノ?」
「うん。そうだよ」

身近な例なら、わかりやすいだろうと、正一は説明した。

「雨上がりにね、空気中の細かい水滴に太陽の光が当たって、いつもは白く見えている光が7つに分かれて見えるのが虹だよ。でも、“7色に見える”だけであって、空気にそのものに色がある訳じゃないんだ」
「にゅ……そうなんだ。ブルーベル…にじはほんとうに7つのいろのはしだとおもってたのに。にじのうえを、あるいてみたかったのに……はあとぶれいくだよ……」

どよーん。

……としてしまったブルーベルを見て、どう言えばいいのだろうか?正一も悩んだ。
「色とは何か」というのは本当に複雑な問題で、ブルーベルにも分かるように説明するのはなかなか難しいのだ。


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