01
ブルーベルは、鳴り止まない目覚まし時計に手を伸ばし、べしっと引っぱたいた。
やっと、おとなしくなる目覚まし時計。
「おきた…!おきられたよ、ブルーベルえらい…!!」
とりあえず、2度寝をしないように、自分で自分を褒めてみる。
そして、今日こそ<謎>と解く為に、ネグリジェ姿のまま自室を出ると、桔梗の部屋へと突進した。
「ききょーっ!あけてよ桔梗っ!!」
「……何事ですか。まだ6時過ぎですよ」
と言いつつ、声がはっきりしているのは、いつもの起床時間とさほど変わらないからなのだろうか。
「ちがーう!じゅうようなのは、6じはんよりもまえ!っていうことなの!!」
桔梗は朝7時には1ミリの隙もなくきっちりと身だしなみを整えている。…とブルーベルは思っていたので、あの化粧顔を決めるのには30分かかる!=起きるのは6時半頃!とブルーベルは予想したのだ。
「……桔梗」
「何ですか」
「はだかじゃ、ないっ!!!なにその、フツーのパジャマ!!!」
「何ですか、それは」
桔梗は、やはりブルーベルは電波で、ザクロの言うことは案外正しいのだろうかと思った。
「だって、桔梗だもん!えろえろしいかんじに、こうすいだけつけて、すっぽんぽんでねてるっておもったのよっ!!」
「……マリリン・モンローですか?」
尤も、彼女は夜寝るときに何を着ていますか(wear)という、それこそえろえろしい質問に、「シャネルの5番を(wear/纏って)いるのよ」という色っぽくも知的な答えを返しただけで、裸で寝ているとは言っていないのだが。
「確かに、裸で寝るという健康法はあるようですが、私は興味がありません」
「つまんなーい」
「では、私が全裸でドアを開けたらどうするつもりだったんですか」
・・・・・・・・・・・・・・・。
「にゅにゅーーーっ!!ありえないぃぃぃ!!!」
「私もそう思います」
でも、ブルーベルが知りたい<謎>は、パジャマではないのだ。
「桔梗!これから、いつもの桔梗顔をつくるんでしょっ!?」
「私はいつでもこの顔ですよ」
「そーじゃなくて!桔梗のケバ」
い、と言いかけて、ブルーベルは桔梗を見上げた。
「……アイシャドーがない」
「塗っていませんからね」
「ひょっとして、すっぴんーーー!!」
「ひょっとしなくても、そうです」
実は、ブルーベルは半々の確立だと思っていたのだ。
つまり、寝るときくらいはメイクを落とすであろう説(?)と、桔梗は桔梗なんだからいつも緑なのに決まっている説と、半々。
「寝る前くらい、メイクを落とさないと私の美肌が損なわれます。因みに、損なわれていないので美肌です」
「じぶんでびはだっていうんだね…。びゃくらんも、じぶんでちょうぜつイケメンとかいうもんね……」
漢字にすると、「超絶」イケメン。
ブルーベルも、白蘭は「おとこのくせにびじん」だとおもうが、
超=こえてるかんじ
絶=こえてるかんじ。さらにことばにできないかんじ。
……とか自分で言ってのけるんだから、なんだかどーしよーもないなーと思う。
「桔梗も、よくじぶんのこと、かれい、とかびれい、っていうよね」
華=はなやか
美=うつくしい
麗=形が整って美しい。うるわしい
……つまり、美麗なんて、美しいを2度念を押して言っているのだ。
白蘭といい桔梗といい、どんだけナルシストで、どんだけ本当で、どんだけ謙虚さがないのだろうか。
が。それも、本題ではない。
ブルーベルは、小さな指をビシィ!と桔梗に突き付けた。
「すっぴんでもケバい!!!」
「ハハン、素顔でも麗しいと言って欲しいですね」
「…………」
ブルーベルも、自分が遠い目になるなんて、小さな自分なりの今までの人生でも、そうそう前例が無いと思った。
でも、興味がある。
「どーして、元々けばいのに、おけしょうするの?」
「そうですね…」
ふむ、と桔梗は案外真面目に考えた。
「……私らしいから、でしょうか」
「わかんないー。桔梗はいつでも桔梗でしょー?」
ブルーベルの言葉を聞きながら、桔梗はクスリと笑った。
(それまでの自分を捨てたい、…と思った時期もあったのですけれどもね)
「桔梗、いまなんかいった?」
「……いいえ」
大きな手で、桔梗は幼い純粋な少女の髪に触れて、頭をぽんぽんと撫でた。
「どのような私でも、確かにブルーベルの言う通りに、私だと思ったのですよ」
そして、ブルーベルが早朝に訪ねて来た理由は、
「つまり、ブルーベルは、私の使用前と使用後を見たかったのですね」
「にゅっ!そーよっ!いつ、どーやって、桔梗がケバくなるのか!!」
と叫んで、ブルーベルは小首を傾げた。
「……アレ?すっぴんでもケバいんだった」
「ハハン、華やかと言うのですよ」
桔梗は言った。
「♪誰も知らない素顔の八代亜紀、…と物まね芸人に歌われた演歌歌手と同じです。彼女はのちにノリで素顔を公開しましたが、すっぴんでもメイクでも、さほど印象は変わりませんでした。要するに、元から美しいと、塗っても塗らなくても大きな差はないと言うことです」
「桔梗…、それ、へいせいうまれはぜんいんりかいできないとおもうんだよ?」
でも、ひとつ謎が生じる。
どーして、違わない、のにわざわざ塗るのだろーか???
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[図書室58]
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