01

「オジギソウの種を蒔く頃、この種を庭に蒔いてご覧」

正一がぽろぽろとブルーベルの小さな手に粒を落とす。
「にゅ。これって、たね?」
「種だよ」
「なんのたね?」
「何だろうね」
「…………」

ブルーベルは、にゅにゅーっ!と叫んだ。
「入江って、そんないいかたばっかりっ!」
「あはは、ごめんね。…でも、僕は夏になるまでのお楽しみにしたかったんだよ」
「おたのしみ…」

ブルーベルは、不満げに可愛い顔の眉を寄せた。
「はじめから、たねあかししたって、ブルーベルはたのしみだなあっておもいながら、そだてられるのに」
「種だけに?」
「にゅーっ!ダジャレじゃなあぁいっ!!」

だって、オジギソウだって、何が育つのか、どんな花が咲くのか、知っているけどその日を楽しみにお世話をする事が出来るのに。

「入江の、イジワル」
「好きな子に、意地悪なんかしないよ」
「す…すすす…!」

いつも、さらりと言われるから、どきんとしてしまう。

「君が好きだから、楽しみにしていて欲しいプレゼントで、意地悪じゃないよ、…っていう意味だよ」

どきどきして。かーっとお顔が熱くなるのは、いつもいつも、ブルーベルばっかり!なのがズルイと思うの!!

「ほんとうに“すき”だったら、なんのたねかくらいおしえてくれるもん!入江のいじわる!入江なんか、だいきらい!!」

ブルーベルは一気に叫んでしまい、…はっとして正一を見上げた。
正一は、困ったように笑った。

「…そう。ごめんね」

ざぁっと、風が吹いて森の木々を揺らした。

「入江…?」

ブルーベルは、立ち尽くした。
小径には、柔らかな木漏れ日が踊っているばかりで。

「入江…、どこ?」

呼んでも返事はなく、小鳥の囀りが聞こえた。

「入江ーっ!」

叫んでも。優しい緑の瞳の少年はもういなくて。
ただ、ふたりがそこに居た証に、ブルーベルの手にはころころと種が残されていた。

「…う…、ふえ…っ」

ぽろぽろ、涙がこぼれ落ちた。
あやまらせても、くれなかった。

……ううん、ブルーベルがあやまらないのは、いつも。
あやまるのは、いつも入江のほうで、入江がわるくなくたって、ごめんねって、入江はやさしくじぶんのせいにしてくれるばっかりで、ブルーベルは、ごめんねって、いわない…

「入江…!だいきらいなんて、うそだよ…!」

ブルーベルはこどもだから、いつもすきっておもってるのに、はずかしくって、なかなかいえなくって…
すなおじゃない、イヤな子なのよ。





「どうしたんだい?ブルーベル」
「入江…いなくなっちゃった」

ふえぇ、と泣きながらブルーベルは白蘭に抱き付いた。

「入江に、きらわれちゃった…」
「喧嘩でもしたのかい?」

ブルーベルは、首を振った。
「けんか…したことないもん。ブルーベルがわるくても、入江のほうが、いつもごめんねっていうから」

喧嘩すら、してくれない。
優しいばかりで、笑ってくれるばかりで。

「ブルーベルが、わるいことしても、ダメだよっておしえてくれるだけなの。入江は、ぜったいに、ブルーベルをしからないんだよ…」

ひっく、ひっく、としゃくり上げるブルーベルから、白蘭は少しずつ事情を聞いた。

「そっか…この種かぁ」
「びゃくらん、わかるの?」
「分かるよ。これはね…」
「いっちゃダメっ!」

ブルーベルは止めた。
「入江は、おたのしみで、プレゼントだっていってたから、ダメ!!」
「…そうだね」

くすりと、白蘭は笑った。
「僕はね、正チャンの気持ちが分かるような気がするよ。この種はね、必ずブルーベルが喜ぶお花を咲かせてくれるはずなんだ」
「かならず…?」
「うん。きっと、ブルーベルが好きだって思えるお花が咲くよ。ステキなプレゼントだよ。正チャンは、この花を見たブルーベルが驚いて、嬉しいって笑ってくれる顔を見たかったんだろうね」

ブルーベルは、余計に泣きたくなった。
「でも…ブルーベル、いじわるって、だいきらいって…いっちゃった」

(君が好きだから、楽しみにしていて欲しいプレゼントで…)

「入江、いなくなっちゃった。だいきらいなんて、うそついたから、入江もブルーベルのこと、きらいになっちゃったんだ…!」

(君は、嘘をつかないから。僕は、ひとつも傷付かなかったよ。…だから、ありがとう)

いつか、そう言ってくれたのに。
ブルーベルはうそをついて、やさしい入江を、きずつけたの。

「嫌いになるなんて、ないと思うなあ」
「…どうして?」

つぶらな青い瞳に、白蘭はにこりと笑いかけた。

「なんていうかね、正チャンはそういう子なんだよ」
「……いみ、わかんない」
「だって、僕はかなりダメな親友だけど、それでも正チャンは僕を見捨てないんだもん。いちど好きになったら、ずっと好きでいてくれる……正チャンはそんな子なんだよ」


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