01

きれいに、さいてる。

でも、もっと、もっと、きれいにさけるようなきがする。

どうしてか、それがこわいとおもった。

はじめてみる、あかいとりいをくぐったら、べつのせかいにまよいこんでしまったみたいな、そんなきもちが、したからかもしれない。


「8分咲きくらいかな」
正一は、その桜の大木を見上げて言った。

「…もっと、きれいにさくの?」
「もう少しすれば満開だけど、僕はこのくらいでも十分綺麗だと思うよ」

入江が、じゅうぶんきれい、っていったから、ちょっと安心した。

「あと、どのくらいすれば“まんかい”なの?」
「このくらい咲いていれば、明日なのかな。でも、今日は寒いから、明後日くらいかも知れないね」

そう。さむい。
今日は“花冷え”というらしくて、もっとあったかい上着を来てくれば良かったと思っていたら、正一が上着を脱いだ。

「入江、なにしてるの?さむいよ。ばかなの?」
「あはは、ばかでもいいよ。…ちょっと大きいけど、着ているといいよ」

ふわっと、肩に掛けられた、正一の体温が残る上着。

「ちょっとじゃない。いっぱいぶかぶかだよ」
「ごめんね。手が冷たかったから」

ブルーベルは、気が付いた。
包み込むように繋いでいてくれた正一の手が、とてもあったかく感じたのは、自分の手がつめたかったから……

「おとこもの。かわいくない」
「ごめんね」
「……かわいくなくても、うれしい」
「そう」

そっけないへんじのようで、となりの入江をみあげると、やさしくわらってる。
…いつも、そう。

だから、だいじょうぶっておもえた。

とりいのこっちがわが、べつのせかいでも。
さくらのはなが、きれいすぎて、こわいのも。

「にほんじんは、おはなみをするんでしょ?どうして、だれもいないの?」
「ああ、ここはね、神社の本殿に近いところだから、勝手にレジャーシートで陣取って飲食するのは禁じられているんだよ。…こっちに行こうか」

参道を脇に外れて、正一はブルーベルの手を引いた。
そこは、きっとまだ神社の境内なのに、ずいぶん賑やかだった。
……どうして、今まで気付かなかったのか、不思議なくらいに。

「こわいおはなだから…。みんなであつまらないと、見られないのかな……」
「え…?何か言ったかい?」
「ううん。…なんでもないよ」

ブルーベルは、代わりに呆れ口調で言った。

「こんなさむいひに、レジャーシートしいて、おべんとうたべておさけのむって、にほんじんバカなの?」
「あはは、それは、よその国の人から見れば、バカかも知れないね。日本人は、昔から特別に桜の花が好きで…1年のうち何日間かこの花を見る為だけに、日本中に桜の木を植えたんだよ。気象情報ではね、“桜前線”っていう言葉があって、今日は日本列島のどこどこまで開花しました、ってわざわざテレビで放送するくらいなんだ」
「にゅ…。もっと分かんない」

きれいなはるのおはなは、もっといっぱいあるのに。
さくらは、ちょっとのあいだしかさいてくれなくて、ぜんぜんかおらない……ソメイヨシノは、そうなのに。

どうして、ちのいろを、うすくしたみたいなこのはなを、くにじゅうにうえたのか、わからない。

「うるさい。さけくさい」
「あはは、この時期、桜の名所はどこもそうだよ。……元の場所に戻るかい?」
「ううん…ここがいい」

いつもは、ふたりきりで見る花が、とても綺麗に見えるのに。
今日は、浮かれている人々がいるこの場所がいいと思った。

「綺麗だよね」

正一が、石畳に落ちていた五弁花を拾い上げた。
正一はきっと、木の上に咲いている花ではなくて、近くで見せてくれようとしたのだろうけれども、ブルーベルはやはり、それは禍々しい美しさを持つもののように思えた。

遠目には綺麗な薄紅色の雲のようなのに、こうして間近で見ると、やはり血の色だと思うのだ。
花の縁は白に近いけれども、花の中央は赤い。そこから、筋のように赤みが少しずつ薄くなりながら縁に向かっているのだ。

「……どうして、“まんかい”まえなのに、くびちょんぱ?」

つばきのはなでもないのに。

「……首ちょんぱ?」
正一は繰り返して、可笑しそうに笑い出した。


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