V 天才科学者ヴェルデととチャイナ美女風 02

 
……あの笑顔は、反則だろうと1ヶ月経ってもヴェルデは思っていた。
義理チョコか友チョコか知らないが、その程度のものを受け取って貰えたからといって、あのように笑うなどと、天然もここまで来ると罪というものだ。

だが、罪でも何でも、日本の流儀でチョコレートを渡され受け取ったのだから、日本の流儀でホワイトデーにお返しをすべきだろう。

……何を?

ネット検索してみると、女はブランドものやら高価なものを一般的に好むらしいが、洗練されたおしゃれ、確実に愛用するという観点から言って合理的だとヴェルデは思う。
が、風はあまりそういうものに興味は無さそうだ。何をもらっても、ありがとうございますと笑ってくれそうな気もするけれども。

何でもいい、というのは案外困るものだとヴェルデは思った。
人間は、喜ぶからと言って、自分の好みではないものまで何でも使ったり何でも飾ったりするものではないのだ。心だけ受け取って置いて、箪笥で済めばいいが納戸の肥やし、というのがよくあるパターンのように思う。

……ならば、形に残らないものがいいのか?
例えば、花束だ。

ヴェルデが風に贈ったとなれば、リボーンやスカル辺りが鬱陶しい感じに冷やかしてくれるのがむかつくが、花が枯れてしまえばそれも終わる。

そして、定番はクッキー、キャンディー辺りだ。日本のバレンタインデーもホワイトデーも、菓子屋の陰謀なだけに。
チョコレート同様に、無難であり、外す可能性が少ない。プレゼントするタイミングも、風がまたお茶の時間に現れたときにでも、さりげなく渡せば済むだけの話だ。

(それだけで、済む……)

だが、ふとヴェルデは思い出した。

(来年は、別のものを考えますから)

来年など、本当にあるのか?依頼人がミッションを終わらせてしまえば、この7人は解散する。
1年後も、風が傍にいてくれる保証など…お節介にもお茶の時間を勝手に設定して訪れてくれることなど…

「……無い、可能性を大いに考えるべきなのだろうな」

ヴェルデは、PCをスリープにすると、席を立った。
1年後には失う、それならば、今失うのもさして変わりはない。




風は、その日もヴェルデの研究室を訪れた。
「ヴェルデ…?」

リボーン曰く「研究中毒」のヴェルデの姿が無いのは珍しい。風は、少し切ない思いで呟いた。
「お茶が…冷めてしまいますね。少し時間を置いた方がいいのでしょうか…」
「構わん、デスクに置いてくれ。お前の両手が空かなくては私が困る」

風が振り返ると、そこには息を切らしたヴェルデが、大きなバラの花束を持って立っていた。
「どうしたのですか?」
「お前が言う午後のお茶の時間とやらに間に合わせる為に急いだ。何の用かは、見れば分かるだろう」

ヴェルデは、これが死ぬ気という奴か、と思いながら、風にバラの花束を差し出した。
クッキーもキャンディーもマシュマロも渡さずに。

「菓子屋の陰謀に乗らなくてすまんな。だが、これが私のお前に対する心だ。…私に返すことはするな。受け取って困るのなら、捨てて構わない」

風は、狼狽えた瞳でヴェルデを見上げた。
「そんな…捨てるなんて出来ません。綺麗なお花で…ヴェルデが贈って下さった物なのに」
「思わせ振りなことだな。だが、お前の手に渡るというのなら、その花も少しは報われるのだろうよ」

ヴェルデは、きっとこれが、唯一のチャンスなのだと思うと、不思議に心が落ち着いてゆくのを感じた。
本当の心を押し隠したまま、いつか別れゆくくらいなら、今此処で告げたい。

「風。私はお前を愛している。だから、1年後もお前に私の傍に居て欲しい。欲を言うならば、一生私のものになって欲しい」

多分、ほんの何秒かの沈黙であっただけであろうに、手のひらには汗が滲み、その時間はとても長く感じた。

「おい、返事くらいしろ。返事など、Yes.かNo.かどちらかしかあるまい」



「……Yes.です」
「…………」

今度は、ヴェルデが沈黙する番だった。

「あの…、ヴェルデは、私を嫌っていたのでは…ないのですか?」
「はあ?何でそうなる」
「私が…。ヴェルデに会う口実が欲しくて、勝手にお茶の時間を決めてしまって…。ヴェルデは優しいのでいやだとは言いませんでしたが、いつも不機嫌そうなお顔でしたので……」
「…………」

そんなに、自分は仏頂面だっただろうか?鏡で見たわけでもないし分からない、と思ったが、風にそう思わせた理由くらい、すぐに分かった。

「……照れていただけだ。少年じゃあるまいし、みっともないことこの上ないがな」

頬が、火照る。天才科学者も、自分の顔色は制御できない。
恋心にも、嘘はつけない。

「だから…。照れる程度に、私はお前が好きだ。これで、誤解は解けたか?」
「……はい」

やはり、風は花のように笑った。

「私は、いつヴェルデの花嫁さんにしてもらえるのでしょうか?」
「…………」

そうだ、一生、などと口にしてしまったのだから、さっきのは紛う事なきプロポーズだと今更気付いて、ヴェルデは自分の勢いに自分で眩暈を感じた。

「まあ…そうだな。このミッションのグループをさっさと抜けてからだな」
「抜けるのですか?」
「……多分、お前が憧れるあたたかい家庭とやらには、暗殺依頼などというミッションは、相応しくなかろうよ」

ヴェルデは、風に歩み寄り、そっと抱き締めた。

「私に、付いてきてくれ、風。少なくとも、照れ屋は今日を限りに返上すると約束する」

薄紅色の唇に、くちづけた。甘く…深く。
「私は、冷静なのが取り柄のひとつだというものを。溺れさせてくれたのは、お前が初めてだぞ。……お前で最後だと誓う」

風は、それは綺麗に染まってヴェルデを見つめると、返事をした。
「…はい、私はヴェルデに付いて行きます。片想いだと思っていたのに…夢みたいに幸せです」
「片想い、で大体分かったが、妻にするからには肝心な科白が欲しいものだ。言ってみたまえ」
「え…?」

ヴェルデは、微笑した。
「…私は、お前を愛している」

風は、やっと気付いた。自信が無いから、チョコレートを渡しただけで、何も告げていないのだと。
真っ赤になりながら、ヴェルデを見つめた。

「私も…貴方のことを、愛しています…ヴェルデ」



……その後、天才科学者と無敵の拳法家というふたりの男女が姿を消した。
よって、残りの5人も自然解散し、それぞれのゆく道へと還っていった。

誰も、虹の呪いというものを、知ることはなく。





〜Fin.〜


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※次項、next# で正一とブルーベルへ 

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