02

ブルーベルは気付いた。
…きっと、同じ。

“去って行くものは美しい”のだ。

(…入江)

その背中が、遠くなる。

ブルーベルは、その名を呼ぼうと思ったのに、声にならなかった。

(入江…!)

……見失って、しまう。

「入江…」

やっと、掠れた声が出て、ブルーベルは叫んだ。
「…入江!!ブルーベルを、置いて行かないでよ!!」








「…どうしたんだい?」

ブルーベルは、はっと我に返った。

「僕は、此処に居るよ」

正一が、優しくブルーベルを見下ろしていて、ふたりの手は繋がれたまま。
周囲はひらひらと桜の花びらが舞っていて、何も変わらずに、散策している人々のざわめきがそこに在った。

「僕は、何処にも行かないよ、ブルーベル」
「……入江」

ブルーベルは、正一を見上げて、瞬きをした。
「入江…背、高い」
「え…?」

正一も、困惑した表情で応えた。
「まあ…僕は成長期が遅く来たから、ここから10cmくらい伸びるんだけど」
「何かズルイ…」

正一ばかり、どんどん大人になってゆくような気がして。
「ずるくないよ。これから何度春が来ても、僕はブルーベルの傍にいればいいんだろう?」
「…………」

ブルーベルは、真っ赤になった。
「にゅにゅーーーっ!なにその、いきなりころしもんく!入江のくせにーーー!!」
「あはは、ごめんね」

ブルーベルが、また入江は、悪くなくても謝る…と拗ねた気分になっていると、繋いだ手に、少しだけ正一の力がこもった。

「散ってゆく桜の花はね、きっと、桜の木の約束なんだよ」
「え…?」

正一は、微笑む。
「短い間しか咲いていられない。でも、必ず毎年咲いて、春を告げてくれる。何度でも、何度でも…毎年繰り返し」
「…………」
「その年の花は終わってしまっても、桜の木は約束してくれるよ。また次の春には会えるって。また花を咲かせてくれるって。だからみんな、こうして桜が散るのを見て、次の春が来るのを、今から楽しみにしているし、散ってゆくのを綺麗だって思うんだよ」

大丈夫だよ…と、正一は身をかがめて、ブルーベルと視線を合わせてくれた。

「好きだよ」

穏やかな風に、桜の花びらはふたりの足元に、次々と舞い降りる。

ブルーベルは、若葉色の瞳を、見失った。
……そっと、抱き寄せられたから。

「僕が、ブルーベルを好きだから。傍にいるよ」
「…………」

ブルーベルは、正一の腕の中でジタバタした。
「にゅにゅーーーっ!なによきゅうにーーー!!」
「急にじゃないよ。ブルーベルが、置いて行かないでって言うから」

……そうだ。正一が、桜吹雪の向こうに消えてしまうと思ったのだ。
だから、そう叫んだのだ。

あれは…ゆめだった……?

「きっと…、ゆめ…」

ブルーベルは、呟いた。
ほんとうなのは、今ここで抱き締めてくれる、正一のぬくもり。

「僕の約束は、夢じゃないよ」
「…にゅ。なんのこと?」
「恋占いは要らない。代わりに、何度でも好きだよって言うって」

ブルーベルの耳元で、聞こえた。

「すきだよ。…ブルーベル」







……散ってゆく桜の花びらが、とても綺麗に見えた。



〜Fin.〜
 

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