02

「にゅにゅーーーっ!なんでわらうのよっ!こわいじゃないのっ!」
「怖くないよ」

くすりと、正一は笑って言った。
「ほかにも、こういう花が結構沢山あるだろう?」
「ホントだ…」

ブルーベルは、正一の袖にしがみついて叫んだ。
「だからこわいってばーーー!!」
「これはね、鳥が落として行ったんだよ」
「……とり?」

正一は、桜の木を見上げた。
「ほら、見てご覧。ああやってね、蜜を吸っているんだよ」

名前は分からないけれども、小鳥が桜の枝に止まっている。そして、花びらを散らすのではなく、ふわりと花ごと地面に落ちた。
「この辺りは、鳥が多くて、だから花ごと散る桜が多いんだろうね」
「……なあんだ」

ブルーベルは笑った。
「さくらより、とりのほうが、つよいんだね」

くすくすと、ブルーベル笑い続けるので、不思議に思って正一はブルーベルを見た。
「どうしたんだい?」
「こわくない。きれい」

ブルーベルは、正一を見上げて言った。



…とってもきれいだから。


ぜんぶ、くびちょんぱになっちゃえば、いいのにね…?



可愛らしい笑顔を正一に向けると、ブルーベルは走り出した。
「ブルーベル!」

ブルーベルの足取りは軽くて、そんなに急いでいるわけではないのに、正一は早く追い着いてやらなければいけない、そんな気がして息を切らして追いかけた。

「ねーねー入江。これもさくら?はっぱもいっしょにでちゃってるけど」
「…うん。そうだよ」

それは、山桜なのか園芸種なのか。
「ソメイヨシノは花が咲いてから葉が出てくるけど、こうやって葉っぱと一緒に花が咲く桜の方が多いと思うよ」
「ふぅん。でもこれ、かわいい」

それは、ソメイヨシノよりもはっきりとしたピンク色で、花びらが豊かでころんと丸い雰囲気だった。
「5まいじゃない。いっぱい」
「八重桜って言うんだよ。5枚よりも多い桜を、大雑把にそう呼ぶんだ。5〜10枚くらいが多いけど、100枚を超える…中には300枚を超える桜もあるらしいよ」
「そうなんだ。おもしろいね」

その桜は、斜面に生えていて、ブルーベルにも花に手が届いた。
そして、その小さな手は、ぷつんと一輪の花を摘んでしまった。

「ダメだよ、ブルーベル。ここは神社の桜なんだから、勝手に摘むのはいけないよ」
「どーして?とりさんは、いっぱいおとしてたのに」

この辺りにはソメイヨシノは無くて、桜はまばらで花見客からは離れていることに、ブルーベルは気が付いていないのだと、正一は思った。

「5まいだとね、ちょっとつまらないんだもん」

ブルーベルは、無邪気にぽすんとそこに座ると、正一に手を伸ばした。
「入江。さっきのさくら、もってる?」
「もってるけど…?」
「ちょうだい」

正一も隣に腰を下ろすと、ブルーベルは薄紅色の花びらを、小さな指で1枚ずつ散らした。

「…すき、きらい、すき、きらい、すき……」

5枚のはなびらは、少し冷たい春の風に乗って、何処かへ消えていった。
「こいうらない」

ブルーベルは、少し不満そうに言った。
「ね、すぐにおわっちゃうんだよ」

そして、5枚なので、占うまでもなく、始めから答えはわかっている。だから、ブルーベルは楽しみにも不安にもすることなく、1枚ずつ散らすことが出来たのだ。


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