01

「桔梗は、白い花が好きなんだね」
「好きですよ。私にとっては、白蘭様の色ですから」

くすくすと、桔梗は笑う。
「白銀なのは偽りで、実は真っ黒な悪魔だと思っていた頃もあったんですけどね」

きっとそれは<未来>のことなのだろうけれども、ブルーベルはよく覚えていない。
にこにこ笑っていて、明るくて優しくて、マシマロ分けてくれて、お兄ちゃんに似ていて、……時々、とても怖かった。それでも大好きだった、としか。

「入江がね、びゃくらんは、かみさまの青になれなかった、紫のバラだって言ってた。でも、その紫のままでいいんだって」
「……そうですか」
「でも、桔梗は胡蝶蘭だって言ってるよって言ったら、それも分かるよって言ってた」
「……そうですか」

ほんの少年の時に未来の記憶を受け取って、あの緑の瞳の青年は、変わってしまった。

(あなたは…間違ってる!)

そう、親友に向かって叫んだ24歳の入江正一は、もういない。
誰かを否定するくらいなら、あの青年は何も言わずに背を向けて、そっと、静かに去って行くのだ。

「大切なら、失ってはいけませんよ」
「何のこと?」
「入江正一のことです」
「…………」

ブルーベルは、もぐもぐと食べていたマシマロを、ぶーっと噴いた。
「にゅにゅーーーっ!何よー突然っ!」
「突然ではないでしょう。先に彼の名を出したのは貴女です」

桔梗は、ハンカチで自分の顔にかかったマシマロを拭き取った。

「白い花で、私がブルーベルに似合うと思うのは、スズランですよ」
「すずらん?」

日本語では、そのまま鈴の蘭と書く。
「鈴はベル。蘭科の植物ではないのですが、白蘭の蘭と書くのですよ。君影草という奥ゆかしい別名もありますし、谷間の姫百合というのも美しいでしょう?」
「それいい!」

ポピュラーな花であるから、当然ブルーベルもその花姿は知っている。
「とっても可愛いしー」
「そうでしょう。入江正一も同意してくれると思います」
「どーして、いちいち入江に結びつけるのーーー!!!」
「花言葉のひとつは、純愛。あなた方にはぴったりでしょう」

ブルーベルは、かーっと赤くなった。

「フランスの習慣ですが、5月1日を『すずらんの日』と言って、愛する人や親しい人にすずらんを贈る習慣があります。贈られた人は幸せになるそうですよ」
「にゅ…な、ななな何で、ブルーベルにそんなお話をするの」
「他意はありません。先程言った通り、白い花ならブルーベルにピッタリだと私が思ったと、それだけです」
「そ…そう。ありがと…」
「因みに、女性から男性に贈ると『愛の告白』を意味します」

…ブルーベルの口の中には、もう噴射するマシマロが残っていなかった。

「ど、どどどどーして!女の子から男になのっ!?お花を贈るのなら、男から女の子でしょっ!入江からブルーベルにでしょ!!」
「私は、別に入江正一に贈れとは言っていませんよ?」
「にゅにゅーっ!!!絶対言った!名前出さなくたって言ったもんーーー!!!」

叫んで、ふとブルーベルは気付いた。

「……ブルーベル…。すきって、いわれたこと、ない…」

…は?と、桔梗は首を傾げた。

「デート場所も脳内もお花畑の甘い仲ではありませんか。今更では?」
「誰の脳内がお花畑ーーーっ!!!」

叫んだけれども、ブルーベルはうるっとしてしまった。
「入江…大人なのに。愛してるどころか、大好きも、好き、も言ってくれたこと、ないよ…」
「…………」

これは、恋する乙女にとって、随分と重大な問題であるらしい。
男である桔梗にしてみれば、そんなの察しろというか、雰囲気で大体分かるだろうと思うのだが。

「順番の付けられない、“唯一”で“特別”を伝え合った仲でしょう。告白しなくても、既にプロポーズ級なのでは?」
「されてないもんーーー!!プロポーズなら、大粒のダイヤ持参で跪いてロマンチックにしてくれなきゃだめでしょーっ!!」

……ただのダイヤじゃなくて、大粒でなければダメなようです。ロマンチックに頑張って下さい入江正一。


[ 62/101 ]

[*prev] [next#]
[図書室57]
[しおりを挟む]


×
「#切ない」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -