01

森を、抜けた。

「あ、桔梗」
「おや、どうしたのですか?ブルーベル」
「あのねー」

ブルーベルは、口にしようとして気が付いた。
ずっと、森の中を歩くときに手を引いてくれた少年の手のぬくもりが、消えているのだと。

「いない…」
「何のことです?」

桔梗が、穏やかに笑って尋ねる。
ブルーベルは、むーんと眉を寄せた。

「おとなの、そーゆーとこ、キライ」
「そういうとこ、ですか」
「おとなって、ホントはどーでもいーのに、こどもにしつもんするの」

なかなかに鋭いことを言うものだと、桔梗は苦笑した。
これは、言い訳せずに話を逸らした方が、機嫌を損ねて面倒なことにならずに済むだろう。

「ひとりで森に入るのは、危ないですよ」
「ひとりじゃないもん」
「別に怒りませんが、そういう嘘は良くありませんよ。本当に危ないんですから」
「うそじゃないもんーーー!!!」

ブルーベルは、小さな足を踏み鳴らして叫んだ。
ここは芝生しかなくて、花が咲いていないからこうしてもいいのだ。

「入江がいっしょだったもん!」
「入江正一ですか?」

桔梗は、これは意外な名前が出て来たものだと、森の方を見遣った。
「でも、ブルーベルが森から出て来たときには、ひとりでしたよ。彼はどこにいってしまったのでしょう?」
「……しらない」

ブルーベルは、正一の手に包み込まれていた方の手を、じっと見た。
「まあ、彼くらいの年齢なら、付いて行ってもいいでしょう。遊んで貰ったのですか?」
「…にゅ?」

ブルーベルは、桔梗を見上げて、ビシィ!と小さな人差し指を突き付けた。
「ちがうもん!ブルーベルが、入江とあそんでやったのっ!!」
「…………」

桔梗は、くすくすと笑った。
「そうですか。彼も楽しかったでしょうね」
「桔梗わらったーっ!ぜったい、ほんきにしてないっ!」

ブルーベルは真っ赤になったけれども、ふと後ろを振り返った。

(いない…)

「どこ、いっちゃったのかな…」

ブルーベルが、思う以上にしょんぼりとしたので、桔梗はブルーベルの髪をそっと撫でた。
「白蘭様の話では、彼は誰とも仲良く出来そうに見えても、違うのだそうですよ」
「なにそれ?」
「案外、ひとの好き嫌いがはっきりしていて、嫌いな者には近付きたがらないのだとか」

つぶらな青い瞳が、じーっと桔梗を見つめた。
「どうかしましたか?じーっと見て」
「ケバい」
「よく言われますが、美しいものはやっかまれるものです」
「いみわかんないっ!」

…でも。と、ブルーベルは続けた。

「桔梗と入江のみどりは、ちがう。でも、ちがっていいんだよ。どっちもキレイで、くらべるものじゃ、ないんだよ」
「…………」

案外、深いことを言ってきたと、桔梗は目を細めた。
入江正一に教わったのだろうか、それとも、ブルーベルが入江正一と関わることで、自分で辿り付いた答えなのか。

そして、子どもとは、ちょっとつついてやると面白い反応をするものだ。
「ブルーベルと一緒に遊んでくれたのなら、入江正一はきっとブルーベルが好きなのですし、また会えますよ」
「……うん」

沈んでいた様子だったのが、あどけない頬はピンク色に染まる。
「ブルーベルも、入江正一が好きですか?」
「…………」

ブルーベルは、また真っ赤になって叫んだ。
「にゅーーーっ!ブルーベルはね!入江なんかっ」
「嫌いなのですか?」

う、とブルーベルは詰まった。
そして、そのこと自体が許せない!とばかりに叫んだ。

「す…すきだけど、100ばんめくらいだもんっ!」
「…………」

懸命な意地っ張りに、くすりと笑った。
「ザクロは?」
「ブルーベルのこと、でんぱっていうから、101ばんめっ!」
「デイジーは?」
「え、…っと、ブルーベルのけがをなおしてくれたから、99ばんめ!」

……つまり、ウッカリと真6弔花の面々と同じくらいに好き、と言ってしまったことに気が付かない、素直で可愛らしい子ども。

「私は?」
「桔梗は…2ばんめ」
「どうしてですか?」
「ザクロよりやさしいもん。あと、1ばんめはびゃくらんだから!」

白蘭、と口にするときは、とても嬉しそうに笑う。

「それは、微妙な2番目ですね。でも、嬉しいですよ、人魚姫」

きっと、3番目から98番目は意味のない欠番なのだろうと、桔梗は笑った。


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