Blue

 
「にゅにゅっ!おもってたのと、ちが〜うっ!!」

水の妖精のような、青い髪の少女が、小さな足を踏み鳴らした。

「“ブルーベル”っていうから!!きれいな、あお!!のお花だとおもってたのにーーー!!!」
「そう?僕は綺麗で可愛い花だと思うけどな」

少女は、綺麗で可愛い、の部分は気に入ったけれども、何となくほっぺたが赤くなるのがイヤ!だと思った。

「なーによぅ、入江のくせにっ!!」
「あはは、ごめんね」

少女…ブルーベルは、どこか兄に似た、白銀の青年の笑い声を思い出した。

(日本人ってさ、面白いんだよ)
(自分が悪くなくても、すぐ謝るの)

「入江、びゃくらんが言ってたとおり…」
「何の事だい?」
「おしえてあげないっ!入江が悪いんだからね!!」
「ごめんね」

やはり、緑の瞳の少年は謝るけれども、優しく笑ったままで、気を悪くした様子はない。

「でも、見せてあげたかったんだよ。…本当の、イングリッシュ・ブルーベル」

そこは、背の高い木立の下を埋め尽くして、青紫の花が群生する森。
「まるで、いつまでも遠くに続いている、絨毯みたいだよね」

緑の瞳の…入江正一は、小径を外れてその絨毯の中へと入ってゆく。でも、その足は、花を踏まないように気を付けているのだと、追いかけるブルーベルは気が付いた。

「綺麗だろう?」
「きれい…だけど」

ブルーベルは、その場にしゃがみ込んで、その名の通りベルのような鈴のような、小さな花に触れた。

「……あおじゃない」
「そうかな。紫より、青に近いと思うけど」
「ほら入江だって、むらさきって言ったーーー!!!」

ブルーベルは、また足を踏み鳴らそうと思ったが、やめた。
そんな事をしたら、花を潰してしまう。

「ブルーベルはね!ぶるーっていうから、あお!だと思ってたのっ!!おそらみたいな、うみみたいな、ぷーるみたいな!あおっ!!」

…プール?と正一は首を傾げた。

「そう言えば、プールの底って、どうして水色に塗られているんだろうね」
「しらないけど、みずだからみずいろで、あお!がきれいなのっ!!」

この少女は、よほど青が好きなのだと、正一は微笑した。

「……空か水みたいな青じゃなきゃ、イヤだった?」

ブルーベルは応えない。
つぶらな青い瞳が潤んで、泣きそうなのを懸命に堪えているように見える。

「実はね、いかにも青い花っていうのは、とても少ないんだよ。……そうだね、今僕がすぐに思い付くのはふたつかな」
「……それ、なに?」
「忘れな草。あとは、ブルースターかな。オキシペタラムとも言うけど」

わすれなぐさ、ならブルーベルも知っていた。
白蘭から聞いた事がある。花言葉は「私を忘れないで」。
綺麗だけれども、悲しくってイヤだな、と思った。

「ブルースターって、はなことばなーに?」
「…幸福な愛、信じ合う心」
「なにそれ!いいかんじー!!」

“ブルーベル”の花言葉も、結構いい感じだったと思うけれども、ブルースターの方がちゃんとした青なら、そっちの方がいい。

「どんなはな?」
「……この花だよ」

いつの間にか、正一の手には1本の花があった。ひとつの茎から、数個の水色の五弁花が咲いている。
「花びらが5つあるだろう?星のようだから、ブルースター。花嫁さんのブーケにも使われる花だよ」
「にゅーっ!!こっちの方がよかったーーー!!!」

綺麗な水色。淡い青。花嫁さんの花。
こっちの方が、ずっとずっと、綺麗なのに。
どうして、白蘭はこの花の名前をくれなかったのだろう?

「……そうかな。確かに綺麗だけれど、比べるものじゃないんだよ」
「入江っ!そーゆーのこそ、きれいごと、っていうんだよっ」
「世の中では、綺麗事って、結構大事だよ」
「にゅっ!なぁによぅ、ちびのくせに、大人ぶってっ!」
「あと10年経ったらチビじゃないけどね。178cm」
「ムカツクーーー!!!」

くす、と正一は笑って、綺麗な五弁花をブルーベルに手渡した。
「……どんな香りがする?」

すんすん、と嗅いでみて、ブルーベルはむーっと不機嫌な顔をした。
「わかんない!」
「そうだね。僕も分からないよ」

正一があっさりと言ったので、ブルーベルはきょとんとした。
「…このはな、においしないの?」
「するのかもしれないけど、よく分からないレベルだよね。忘れな草もそうだよ。いかにも水色で…綺麗な青い花だけど、香らない」

ふわりと風が吹いて、ブルーベルの手にあった青い花は、まぼろしのように散った。

「……本当は、咲かせて置いてあげるのがいいんだろうけど」

正一は、足元から1本のイングリッシュブルーベルを摘み取った。それは、いくつも花を付けて、その名の通りたくさんのベルが集まったような花姿だ。

「この花の香りは?」

正一から受け取って、ブルーベルは鼻を近づけてみた。
「……いい、におい」
「僕もそう思うよ」

ブルーベルは、気が付いた。
この、青紫の野原いっぱいに、仄かに甘く優しい香りが満ちているのだ。

「いい香りの、綺麗な花。それがブルーベルだよ」

柔らかく、正一が笑った。
「それに、名前も、ブルースターよりもブルーベルの方が、可愛くて君に似合っているんじゃないかな」
「…………」

ブルーベルは、真っ赤になって、照れ隠しに足を踏み鳴らそうとして、やっぱりこの甘い香りの綺麗な花の上では出来ないのだと思った。
代わりに、叫んだ。

「にゅーっ!入江のくせにーーーっ!!!」
「あはは、ごめんね」






〜Fin.〜
 

[ 43/101 ]

[*prev] [next#]
[図書室57]
[しおりを挟む]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -