01
「あめのひは、あえないのかな…」
あの、緑の瞳の少年には。
いつも、ふと現れては一緒にいてくれて、気が付くと白蘭か桔梗の近くに導かれていて、彼自身は姿を消してしまっている。
だから、次はいつ会えるとも約束したことはない。
それに、言い出すのは、怖かった。
いつ会えるのかと聞いてしまうと、あの少年は少し困ったように笑って、ブルーベルの問いには答えをくれないまま、
「ごめんね」
と言うような気がして。
……そして、もう、二度と会えなくなるような気がして。
しとしとと降る雨。いくら雨属性でも、こんな日は寂しくなってしまう。
ブルーベルは2階の窓を開けて溜め息をついた。
でも、屋敷に近付いてきた青い傘は、青い花のように見えて…
その花は傾いて、そこから顔を出してブルーベルを見上げた緑の瞳の少年は、にこりと笑った。
「入江っ!」
ブルーベルは、階段を駆け下りて、屋敷から外へと飛び出した。
本当は、胸に飛び込みたいのに、身長が足りなくて、正一が屈んで視線を合わせてくれるのが、
「入江だってチビのくせに!おとなぶってーーー!!!」
「確かにチビだけど、どうして怒っているんだい?」
「おこってないっ!」
「…そう」
青い花のような傘に、雨が弾ける音がして、正一はにこりと笑う。
…ほら。やっぱり入江は、ブルーベルをちっちゃいこどもあつかいする。
だって、ブルーベルが“やつあたり”しても、ブルーベルがわるくても、入江はほんきにしないで、やさしくわらってくれるんだもん。
「入江は、どうしてブルーベルにあいにくるの?ブルーベルは、わるい子なのに」
正一は、驚いた顔をした。
「悪い子って、誰かに言われたのかい?」
「……いわれてない」
「じゃあね、気にすることないよ。僕が知っているブルーベルは、いい子だよ」
「どうして?」
しとしとと、優しい雨の中を、手を引かれて歩き出す。
「僕の傍にいてくれるから。僕は、それが嬉しいから。ブルーベルはいい子だよ」
ブルーベルは、繋いだ手があったかいと思いながら、ほっぺたもあったかいと思った。
「ブルーベル、まちがったから、“いさぎよく”、“ていせい”してあげる!」
えらそうないいかたになっちゃったけど、きっと、つかいかたはあってると、おもう。
「入江は、おとなぶってるんじゃなくて、おとなだよ」
「僕は、14歳で子どもだけど?」
「いいのっ!じゅうよんさいは、おとなーーーっ!」
だって、だって、だって。
入江は、ずるいとおもうの。
おとなは、みんなずるいの。
“ブルーベルが”そばにいてくれる、なんて。ちがうもん。
入江のほうが、ブルーベルのそばにいてくれて、ブルーベルをうれしいきもちにしてくれるのに。
入江は、わざとはんたいのいいかたに、してくれたの。
……入江は、おとなで、ずるくて、やさしいの。
「雨の日だから、雨に似合う青い花を見に行こうか」
「アレ?入江、まえに、あおいはなはあんまりないっていってたのに」
「これから見に行く花は、条件が整えば、綺麗な青い花になるんだよ」
「にゅにゅーっ!なんだか入江、むずかしいこといってるズルイーーー!!」
「ごめんね」
また、悪くもないのに正一が謝って、ブルーベルはやっぱり、自分ばっかりほっぺたあかいのヤダ!と思って叫んだ。
「ブルーベルだって、おとなになって、入江をおいこして、きんにくムキムキになってやるんだからーーーっ」
「それは困るなあ。出来るなら身長は抜かないで欲しいし、僕はモヤシだから、あんまりムキムキにならないで欲しいんだけど」
「……入江は、どういうおんなのひとが、すき?」
正一は、ブルーベルを見下ろすと、くすりと笑った。
「さあ…どうだろうね」
「にゅにゅーーーっ!ブルーベルが、しつもんしてるの!!」
でも、それ以上は知りたくても聞けない…とブルーベルは思った。
未来の世界で、何をしていたのかはよく覚えていないのだけれども、自分の姿形は、何となく覚えているのだ。
美少女で、ムキムキに憧れるくらいほっそり体型で、
ブルーベルは、あんまりむねがなかったのよ…!!!
正一が、ボンキュッボンのセクシータイプが好きとか、或いはジャパニーズ・KIMONOが似合うヤマトナデシコが好き、などと言うのなら、ブルーベルは泣いてしまいそうだ。
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