02

「入江は、すずらんって好き?」
「好きだよ。可愛いし、香りのいい花だよね」
「…………」

花の事なら、簡単に「すき」って言ってくれるのに。

「…?元気が無いね」
「入江のせいなんだから」
「そう」
「何その、誠意のかけらもない感じのへんじ!入江なんか、キライーーーっ!!」

癇癪を起こしてすぐに、ブルーベルは泣きたくなった。
うその「きらい」が、自分の胸に突き刺さる。

「それでも、僕はブルーベルを嫌いじゃないよ」

……嫌いじゃない。
すき、とはちがうの。

「僕の所為だって言うから、どうすれば元気になってくれるのかなあって、考えていたんだよ」

眼鏡越しの緑の瞳は、少し困ったように笑っていて。
やっぱり、泣きたくなるほど、やさしい。

「花が咲いている中には入れないから、道を歩きながら見てみようか」
「わぁ…!」

そこは、鈴蘭の群生地だった。

たくさんの、まぁるいベルの白い花。
「いい匂い…」
「うん。独特の、甘くて爽やかな香りだよね。……でも、天然の鈴蘭の香水は無いんだよ」
「え…どうして?」

ゆっくり、小径を歩きながら正一は教えてくれた。
「鈴蘭の花から抽出したエキスで香水を作ることもあるんだけど、その時点で野に咲く鈴蘭の香りとは違ったものになってしまうんだよ。だから、鈴蘭の香りに似せて調香師がブレンドしなければならない、…しても本物の鈴蘭にはならない。そういう花なんだよ」

正一は、にこりと笑った。
「“唯一”で“特別”な花なのかも知れないね」

……ブルーベルばっかり、ほっぺた赤くなって、ズルイ。

「それに…、美しい花には、棘があるんだ」
「にゅ?」

ブルーベルは、しゃがみ込んで鈴蘭の姿をしげしげと観察した。

「とげとげ、ないよ?」
「そうじゃなくて…。鈴蘭には強い毒性があるんだ。だから、虫も動物もほとんど寄り付かない。全草に毒はあるけど、一番強い毒性は、花だよ」

毒が、あるだなんて。
嬉しかった気持ちが、しぼんでゆく。

「……。じゃあ、どうやって、花束にするの?」
「多分だけど、普通に」
「にゅ?ふつう??」
「例えは悪いけど、毒キノコを間違って採取したからって、食べなければどうということもないだろう?鈴蘭も同じだよ。匂いをかいでも触っても、球根を素手で掘り返してもなんともないよ」

ブルーベルは、ぽかんとしたあと、何だか騙された気分で、小さな拳で正一の胸を叩いた。
「だったら、黙っててくれればいいのにぃぃぃ!毒花だとかーーー!!」
「ごめん、ごめん。別に、毒花だなんて言いたいわけじゃなかったんだよ。この花も、花言葉が素敵だから花嫁さんのブーケに使われる花だし、フランスには“すずらんの日”っていう日があって、大切なひとに鈴蘭を送る習慣があるくらいだから」
「にゅにゅーっ!だったら、何で毒の話なんかしたのっ!?」
「……僕は、美しい花には棘がある、…って初めに言ったよ」

そう言えばそうだった…と、ブルーベルは正一を見上げた。
「とげとげと毒と、なんの関係があるっていうの?」
「……簡単に、誰かのものにはならないっていうことだよ」
「…………」
「誰かのものに、なって欲しくない。君は、僕にとって、“唯一”で“特別”だから」

柔らかな春の風が、ブルーベルの長い髪をなびかせて、正一の紅茶色の髪を揺らした。

「ズルイ…」
「何がだい?」
「何その、思わせ振りなカンジーーー!!むかつく!入江のくせにーーーっ!」
「ごめんね」
「あやまる前に、いうことがあるでしょーーーっ!!」
「…言うこと?」
「にゅーっ!にーぶーいぃぃぃ!!」

鈍いのか、そうでないのか。

わからない。はっきり言ってもらえないのなら。

勝手にうぬぼれて、実はちがいました、…だなんて、いくら泣いてもなみだがたりない。

ブルーベルは、ぶつぶつと鈴蘭を摘んだ。
「ダメだよ、ブルーベル。ここの鈴蘭は、勝手に持って行っちゃいけないんだ」
「でも、こうしないと、入江はわかってくれないじゃない!!」

ブルーベルは、摘んだ鈴蘭の根元をハンカチで縛って、正一に突き出した。
「あげる!いらないなら、すててよっ」
「捨てないよ。ありがとう」
「それだけっ!?いつもだけど、反応薄っ!」

もう、泣いてやる。
でも、ここで泣くのはイヤ。

ブルーベルが駆け出そうとすると、その細い手首を正一がつかまえた。
「にゅにゅーーーっ!なんでかんたんにつかまえるのよ!ばかーーーっ!!」
「簡単に…って。僕は、モヤシでも一応男だし」
「そういう問題じゃなぁいっ!」

「意味なら知ってるけど…。『告白』だろう?」
「〜〜〜〜〜っ」

やっぱり、ズルイ。ひどい。
ブルーベルばっかり真っ赤になって。

「だから、ありがとうって言ったんだけど」
「どのへん、“だから”って続くのか意味不明なんだけど!?」
「だって、“唯一”で“特別”だから、誰のものにもなって欲しくないって先に言ったのは、僕だよ」
「…………」

泣きたくなんか、なかったのに。

「でも、ブルーベルは、ききたいことば、入江からきいてない……」

だから、本当は先に言って欲しかったのに、自分から鈴蘭を渡して、気持ちを伝えたのに。


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