02

ブルーベルは、正一を見上げた。
「むずかしいこという…。ブルーベル、わかんないよ…」

入江なきそう…?と思ったけれども、言えなかった。
おとこのくせにーっ!と叫んであげようと思ったけれども、声が出なかった。

「僕は…“あのひと”に、人間のままでいいんだって、言ってあげたかった。…思っていたのに、言っても無駄なのも分かっていたから、言えなかった。あのひとの、瞳の色みたいに紫でも…、神様の一歩手前で青紫でも、いいじゃないかって……!!」

正一は、淡い紫のバラの前で、膝を付いた。

「確かに…あのひとは、棘のあるバラに似ているね」
「……。びゃくらんのこと…?」

尋ねたのに、正一がこちらを見ないから、答えないから、ブルーベルは上手く言えない不安を感じた。

「言ってもダメなら…僕の何もかもが届かなくても、あのひとの棘ごと、人間のままで…人間のままがいいんだって、そのままの貴方が好きなんだって、抱き締めればよかったんだ…っ」
「入江っ!」

正一は、両手を伸ばして、その紫色の美しいバラを抱き締めた。

「入江!なにしてんの!!」

ブルーベルは叫びながら、半泣きになった。
目の前で、正一の手に、腕に、柔らかな頬に、バラの棘が刺さり、或いは引っ掻いて切り裂いて、赤い血が滲む。

「入江やめて!いたいよ!そんなのいたいよ!!」
「……痛くたって、いいんだ」

淡い紫の花びらが、ひとひらふわりと地面に散り落ちた。

「だって…棘ごと抱き締めるって、こういうことだったんだ。本当は、さびしかったあのひとを…誰も寄せ付けようとしない棘ごと、抱き締めるのは。だから…僕は、痛くたって、いいんだ」
「よくないよ…っ!」

ブルーベルは、うわああん、と大きな声で泣き出した。
「いたいのなんて、よくないよ!たのしくない、うれしくないよ!…しあわせじゃ、ないよ!」
「……僕ひとりじゃ、幸せになれないから。あのひとが寂しいままなら、何の役に立てなくても傍にいて…ふたりでいればよかったんだ」

血が、細かい傷から、滴り落ちる。

「わかんない!ブルーベルは、そんなの、わかりたくないよ!しあわせなのがいいことなのに、そうじゃなくてもいいなんて、わかんないよ!入江が、いたくって、いまなきそうなのは、わるいことだよ!むりやり、かみさまのばらをつくろうとすることよりも、ずっとわるいことだよ!!」

(むりやり)

(かみさまのばらを…)


わああん、と体中で泣いているブルーベルの声に、正一ははっとした。
そっと、バラから手を引いた。


(言っても無駄なのも分かっていたから)

「……ブルーベル」

正一は、やっと、青い花の妖精のような少女を振り返った。

「君の声…、届いたよ」
「……なに?それ…」

ブルーベルは、ぐす、と鼻を啜りながら応えた。

「わかんない。入江のでんぱ」
「ああ、そう言えば、ザクロが君のことを電p「にゅにゅーーー!ブルーベルは電波じゃなぁいっ!」

あはは、と正一は笑った。
「ありがとう。…ごめんね。もうしないよ」

やっと、泣くのをやめてくれたのだと、いつもの元気を取り戻してくれたのだと、正一はブルーベルの頭をぽんぽんと撫でた。

「……傷だらけだ」
「あたりまえだよ!いりえのでんぱ!」
「何だか、猫と喧嘩したみたいだね」
「ブルーベルはねこじゃないよ!ブルーベルは、ブルーベルなのっ!」
「…………」

正一は、ブルーベルの手を引いて歩きながら尋ねた。

「白蘭サンは…。ブルーベルにとって、どんなひとだった?」
「にゅ?…んっとね、おにいちゃんににてるんだけど…」

ブルーベルは、不思議そうに正一を見上げた。
「でも、おにいちゃんじゃないよ。びゃくらんは、びゃくらんだよ」
「…………」

創造主という神でもなく。
漆黒の悪魔でもなく。

あの、白銀と紫の親友は……

「じゃあ、僕は?」
「入江…?」

ブルーベルは、ぷぃっとそっぽを向いた。
「入江はね、でんぱ!」
「そう。じゃあ僕は、ブルーベルとお揃いなんだね」
「ブルーベルは、でんぱじゃないもんーーー!!」

くすくすと、正一は笑った。
「……知ってるよ。ブルーベルは、ブルーベルだよ」
「…………」

ブルーベルは、何となくほっぺたが熱い…ような気がするのがイヤ!と思って叫んだ。

「にゅーっ!入江のくせにーーーっ!!!」
「あはは、ごめんね」







〜Fin.〜
 

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