02

「……?どうかしたのかい。元気が無いね」
「入江のせいなんだから」
「ごめんね」
「…………」

まただ。入江は悪くないのに…と思いながら、そして、これを聞くのはかなり恥ずかしい、と思いながら、ブルーベルはやっぱり聞いてみた。

「入江は、むねがないにんぎょ、ってどうおもう!?」
「…………」

じーっと、ブルーベルが正一の横顔を見上げていると、何だかほっぺたが赤いような気がする。
たっぷり、10秒以上の沈黙。

「きれいに…なるんじゃないかな」
「……。どういう、いみ?」
「ブルーベルは、将来のことを聞いたんじゃないかなって思ったから」

・・・・・・・・・・・・・・・。

「にゅにゅーーーっ!ムカツク入江のくせにーーーっ!!どーせ、ブルーベルは10ねんたってもムキムキじゃないし、むねもないんだからーーー!!!」
「だから、ムキムキしなくていいんだってば!ブルーベルはきっと、そのままで綺麗で魅力的な女のひとになるって、そういう意味だよ!!」

ブルーベルは、正一よりもほっぺたが赤くなった。

……きれいで、みりょくてきな、おんなのひと。

どきどき、する。

「……安心したよ」
「なにが?」
「入江のくせにーって叫ばれると、ああブルーベルって元気なんだなって思うんだよ」
「なにそれっ!」

雨の日でも、繋いだ手が、あったかくて。

「この花も綺麗だけど、もう少し歩こうか」
「あ…!アジサイだ!ぴんく!」
「そうだね。ヨーロッパでは、ピンク色が多いかな。フランスでは、日本のバラなんていう言い方もあるくらいだから」
「にほんはちがうの?」
「バラと同じでね、今は…たくさんの色があるけれど、日本のアジサイは、基本的には違うんだよ」

雨の道を歩けば、ピンク色のアジサイがあって、その先には紫のアジサイも見える。
「しろいのも、あるんだ」
「そうだね。割と新しい品種だよ」

もっと、先に進む。
……綺麗な、青紫。

「この辺りになると、日本の庭にもよくある色かな」
「ほかにもあるの?」
「……ほら、むこうにみえるよ」
「あ…!」

ブルーベルの目が輝いた。
「あお!あおのアジサイっ!」

正一の傘から飛び出して、ブルーベルは走り出した。
正一はくすりと笑って、ブルーベルを追いかけて、そっとその上に傘をさしかけた。

確かに、そのアジサイは、綺麗な青…水色、或いは空色という色だった。
「好きかい?」
「うん、すき!」

ブルーベルは、元気に応えてから、またほっぺたが赤くなった。

「す…すきって、このおはなのことだからねっ!」
「うん。君は好きだろうなって思ったんだ」
「…………」

入江は、にぶいとおもうの!!

「アジサイはね、日本原産の花なんだよ。それを美しいと思ったヨーロッパのひとが持ち帰って植えた。……でも、こういう青い花にはならなかったんだ」
「え?どーして?」
「さっき、ブルーベルはアジサイはピンク色っていうイメージだって言っていただろう?アジサイは、土で色が全く違ってしまう花なんだ」
「つち?」
「うん。アジサイの色はね、土の成分で変化して、酸性が強いと青みがかかって、アルカリ性が強いと赤みがかかるんだ。日本の土は酸性で、ヨーロッパの土はアルカリ性で、だから同じ色にはならなかったんだよ」
「…………………………………」

ブルーベルが、きーっと叫んで足を踏み鳴らした。
「雨だから、足元が汚れるよ?」
「そーじゃなくてーーー!!入江、なにそのうちゅう語!?いくらてんさいだからって、イヤミーーー!!!」
「えっと…イヤミじゃ、なかったんだけど」

リトマス紙とか、出しても分かんないよな…と、正一は困った。

「とにかく、日本の土ならこのアジサイは青で、ヨーロッパならピンクや…何か青ではない違う色になってしまうんだよ。それで、ヨーロッパは日本のアジサイを求めて品種改良を始めたんだ。…バラと似ているね」

バラの話なら、以前正一に教えてもらったから、それは分かるとブルーベルは思った。

「じゃあ…。このあおのアジサイは、かみさまのバラなの?」
「え…?」

確かに、正一が教えたのだ。
人間は、存在しない青バラを創り出そうと試みた。でも、今のところ、それは青紫にまでしか至っていない。

正一は、それをかつての白蘭に重ねたのだった。

(…寧ろ僕は、人間は永遠に青いバラに辿り着けなければいいと思ってる)

(それが人間の限界であって欲しいんだ。…神様のバラに、届かなければいいって思うんだ)


(あのひとの、瞳の色みたいに紫でも…、神様の一歩手前で青紫でも、いいじゃないかって……!!)


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