01-甘えん坊

 
入江殿は、無防備だ……と、幻騎士は思う。
今も、正一はころんとソファに寝転んで、幻騎士の膝に頭をのっけて膝枕状態。

普通こういうのは、男が女の膝に頭を預けて膝枕、だと思うのだが。
かといって、幻騎士のキャラ的に、相手が明らかに大人の女であっても、膝枕をして甘えるとか、その密着度の一抹の色っぽさを楽しむというのは、どうもピンと来ないのだが。

そして、赤面症の正一のキャラ的にも、やはり色っぽさを楽しむという意図はないと思う。……そうか。オレは甘えられているのか。

(甘えちゃって、ごめんなさい)

(謝らなくてもいいのですよ)
(オレは、どうやら入江殿に甘えられるのは、好きなようなので)

そんなやり取りをしたのはいつだったか……幻騎士は記憶を辿って思い出した。
そうだ、まだ再会したばかりの頃。初めてカフェで待ち合わせをして、その日のうちに幻騎士は何気なくこのマンションに正一を招いたのだ。

その時には、幻騎士は既に自分の正一への気持ちは、騎士の誓いを超えてしまったものだと自覚していた。
……ああ、そうか。男が自分の部屋に女性を招いてふたりきりになった。それはやはり、特別な意味を持つ。幻騎士は正一への恋心を抑え込みながらも、可能な限り傍に居て欲しいいう望みを持っていたのだ。

だが、正一の方は、つい昨日下着姿を幻騎士に見られてしまった、というアクシデントがあったばかりだというのに、もうすっかり幻騎士に対する安心感を取り戻しているらしい。

正一は、一番素直になれて、一番安心出来るひと、といつか幻騎士に告げてくれたことがある。昨日、あれだけお互いにぎこちなくなりまくってしまったので、困り果てて「元に戻って欲しい」と言い出したのは幻騎士の方だ。
……なのに。

微妙だ……と、幻騎士は思った。

正一にとって、自分が一番の安らぎの場所でありたいと思う心に偽りはない。だが、幻騎士としては、男として思う女にあんまり安心安全な男と思われるのは、何となく不本意なのだ。

「うちの学校って、鬼……!!」
「何がですか?」

正一は、何だかいじいじとしながら言った。

「だって…。冬休みが12/30〜1/3までなんて、社会人並だよ?春休みだって、余所の学校より1週間少ないし、夏休みなんか余裕で2週間も少ないし」
「確かに、未来から学問の記憶まで受け継いでしまった入江殿にとっては、授業は退屈かも知れませんが……ご友人とは親しいのだし一緒に過ごすのは楽しいのでしょう?」
「……それは、そうなんだけど」

正一の頬が、ピンク色に染まった。
「だって…友達とは、日曜以外は毎日会えるけど、幻騎士とはそうじゃないから……」
「…………」
「丸々1日逢っていられるのって、日曜日だけになってしまうから…」
「…………」
「ハンカチのお守り持っていても、寂しいって思ってしまうの…。僕ってやっぱり、甘えん坊なのかな……」

くすり、と小さな笑い声が聞こえて、正一はくるんと寝返りを打って、真っ赤な顔で幻騎士を見上げた。

「わ、笑わなくたって…っ!」
「可愛らしいと思ったのですよ。……確かにご家族の前で、オレと逢いたいんだから仕方無い、と叫んで下さっただけのことはあるのですね」
「…………………………………」

正一は、がーんとショックを受けている様子だが、幻騎士は胸を満たしてゆくあたたかな想いに、やはりくすくすと笑った。

「いいではありませんか、甘えん坊でも。入江殿に寂しい思いをさせてしまうのは、オレも気掛かりですし申し訳ないと思うのですが、……でも、それ程に逢いたいと思って貰えるのは、オレは嬉しいとも思うのですよ」
「〜〜〜〜〜っ」

それに…と幻騎士は続けた。
「逢いたいと思っているのは、入江殿だけではありませんので、安心して下さい」

微笑みかければ、正一はより一層恥じらいの表情になる。
「安心、してもいいのですよ?」
「…っ、安心しないわけじゃないんだけど…、無理っ!!」

正一は、またころんと寝返りを打って、顔を隠してしまった。

「どうしてですか?」

いくらか、間が空いた。そして、正一から本当に小さな声で、返答があった。

「……どきどきするから。…無理」
「…………」

幻騎士も、しばし沈黙した。
そして、自然に微笑を誘われた。

「因みに、オレが入江殿に逢いたいのは、甘え心ではありません。ただ、オレは、貴女に恋をしているので」
「〜〜〜〜〜っ!!!」

正一は、もう耳まで染まったまま、何も言えないでいるらしい。
幻騎士は、そんな正一の柔らかな髪を指で梳きながら思った。

……甘え心でも、それ以外の気持ちであっても、構わない。

こんなにも、自分がひとりの男として意識されているのなら。

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