01

突然現れた、謎のマフィア・ジェッソファミリー。

彼らの戦闘の在り方は、圧倒的で残虐非道と知られている一方で、別の噂も有った。優秀な人材には、寝返りを勧めその代わりに命を保証する、というものだ。勿論、断れば死が待っている。

確かに、ジェッソファミリーは、マフィアと言うよりも無国籍の軍隊に近かった。それを陰から支えるのは、単にリングと匣を使いこなす戦闘要員だけではなく、科学者や戦闘指揮官と言った頭脳集団なのだ。

厄介な敵だと、幻騎士は思った。
マフィアは戦闘もするが、本来は戦闘のプロではない。だが、無国籍軍であるジェッソは、その存在自体が戦闘のプロ集団だ。

そんな力関係にあって、剣士と術士を兼ねる幻騎士は、マフィアにあっても純然たる戦闘のプロだった。
剣を握って何をするのか。それは、人を斬る為に決まっている。

「……下がれ」
幻騎士は、部下に命じた。

「お前達は、ボスのもとへ生きて帰れ」
「それは…!幻騎士様…っ」

幻騎士は、忠実な部下に向かって苦笑した。
「別に、オレは死にに行く訳ではない。帰りがお前達より少々遅れるだけだ」

それが、例え困難なことであっても。さいごまで生き抜いて、ファミリーを守る忠義を果たさなければならない。

「行け。命令だ」
幻騎士は、部下が気掛かりそうに去ったのを見届けてから、ジェッソファミリーの敵陣へと突っ込んだ。

目的は、ひとつだった。
軍隊なのなら……しかも、<かなり優秀な>軍隊であるのなら、確実に存在する。そう幻騎士は踏んだのだ。

それは、傑出した指揮官だ。

(その「たったひとり」を討ち取ればいい)

幻騎士が勝てずとも、相手もまた撤退するしかないのだ。

だから、幻騎士は精密な機器をも欺く幻術で、自分の姿を消した。……何処にいる?目指すは、たったひとりの指揮官。其奴は、何処に……!!

「何…!?姿を消した?」

澄んだ声が、恐らく司令室のメインモニタの前で聞こえた。

「はい。恐らく、ジッリョネロの術士かと」
「レーダーにも映らないのか!?どれだけ、高度な……」

幻騎士は、信じられない思いで、しかしその現実を理解した。
あの細身で小柄な、まだ10代半ばかに見える少年が、ジェッソファミリーの司令塔だったのだ。

もう、自分を狙う凶刃はこの指令室内にある、そんな事も知らないローザ隊隊長・入江正一は叫んだ。
「構わない!!突破しろ!!白蘭サンの命令は殲滅だが、1名取り逃がしたところで構わない。残りの敵を追え!!」

だが、正一は部下の返事を聞くことは出来なかった。
代わりに聞こえたのは、どさり、どさり、と複数の重い「何か」が落ちたような音。そして、悲鳴。

正一は、ハッとして振り返った。何か起こったのか、分からなかった。
分かったのは、司令室の部下の半分は、血を流して床に倒れ伏している……もう死んでいる、それだけだ。

ゆら、と空間が揺らいで、何も無かったそこから、長身の男が現れた。
4本の剣……?

「お前が、ジェッソの司令官か」
低い男の声が無感動に言って、正一に歩み寄った。

「……やめておけ。オレの剣は、拳銃よりも速い」
剣士の言葉は、その背後から震える手で銃を構えた正一の部下へ向けられたものなのだと、正一は戦慄した。

(剣士で…、術士……?)

珍しいタイプの戦士だと、こんな時でも自分の頭は働くのかと、正一は後退り追い詰められながら、考えていた。
体術に優れた術士と言えば、ボンゴレの霧の守護者・六道骸。……でも、彼はまだ復讐者の監獄にいるはずだ。もうひとり、は……

「遺言はあるか。ジェッソのボスに伝えてやる」
「…………」

自分を射抜く鋭いヘイゼルの瞳が、……怖い、そう思うのに、正一は魅入られたように動けなかった。

「泣き言は言わぬか。年端も行かぬ子供にしては潔かったと、そう伝えるとしよう」
「………っ!」

何が起きたのか、正一には分からなかった。
何も、見えなかった。

でも、自分は天井を仰いで倒れていて、自分の耳すれすれに、1本の長剣が、ビィンと余韻を引いて突き立てられていた。
……剣士は、自分を殺さなかったのだ。そして、正一を見下ろすヘイゼルの瞳には、困惑の色が揺れていた。

「……あなたは、女性か」

正一は、小さくコクリと頷いた。
その小さな顔に、見上げる美しいグリーン・アイズに、確かに幻騎士は躊躇い、直前で剣の軌道を変えたのだ。

(オレは、彼女を、知っている……?)

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