01
僕は、初めて知ったのだった。
白蘭サンが、僕がアメリカの工科大学に入学する前から、僕との出会いを待ち続けていてくれたのだという事を。
つまり、僕が中学生時代に、ランボさんの荷物だったバズーカ弾に被弾して、2パターンの並行世界に飛んで、2パターンと白蘭サンと出会ってしまったという、あの事件から……ということだ。
「あの出会いがきっかけで、僕の特殊能力が目覚めたんだよね。だから僕は、絶対に正チャンが、僕の運命の人だと思ってたの♪」
「まあ…それが原因で、白蘭サンは野望街道を突っ走ってしまったんですが」
「本当に逢いたかったんだよー?中学生の正チャンって、本当にちっちゃくて可愛かったんだもん」
……貴女は、相変わらず、人の話をきかない……
「どの辺可愛かったんですか。チビで垢抜けない眼鏡だったと思うんですが。というか、今でも身長と頭脳以外は、冴えないと思うんですが」
「そんなことないよー?僕は、大学で正チャンと出会ってから6年間も、正チャンの愛の告白をずーっと待ってたんだから」
僕にはにわかに信じ難いことだったのだけれども、どうやら本当らしい。それじゃあ、プロポーズ直後に、
「正チャンてばホント鈍いんだからああああ!!!」
……と大泣きされる訳だ。プロポーズの返事はOKだったのに、その後の僕は、ひたすら平謝りするしかなかった。
「その辺が鈍いと思うんだよ正チャン!!謝るのは3回くらいでいいから、その次に熱いキッスをするのが王道だと思うんだよ!?」
「…………………………………」
また、すみませんと言いながら、ぎこちないキスをした僕は、やっぱりカッコ悪いと思う。
「何だか、スッキリしちゃった」
ニコニコしながら、貴女は言う。……世界の破壊とか、新世界の創造主になるとか、そんな壮大すぎて物騒すぎる野望を捨て去ってしまっても、……相変わらず、女神のように美しいひとだ。
「どうしたの?正チャン」
「白蘭サンが、綺麗だと思って」
以前なら、
「アハハハ、あったり前じゃない?僕ってば、すっぴんでも絶世の美女だもんね♪」
とか言いそうなのに。
「……そういう不意打ちって、正チャンらしくないと思うの」
頬を染めて、上目遣いなんてするから。
「じゃあ、今後は言わないように気を付けます」
「正チャンって、案外意地悪だよね!!」
「意地悪だと思われるのは心外なので、やっぱり言うようにします」
貴女は、女神のように綺麗な、でも親しみやすい可愛らしさを持った、人間になった。
白蘭サンは、あの時既に、マーレリングとアルコバレーノのおしゃぶりという、世界創造の秘宝を手にしていた。残りのボンゴレリングをコンプリートしてしまえば、野望は完成する……というところまで辿り付いていた。
でも、僕のプロポーズを受け容れてくれた白蘭サンは、その全てを、ジッリョネロボスと大空のアルコバレーノを兼ねるユニさんに、返還してしまった。
それと同時に、白蘭サンが起こした数々のことは「無かったこと」になり、白蘭サンの特殊能力さえも、跡形も無く消滅してしまった。
「いいの。要らないから」
綺麗に、貴女は笑う。
「正チャンが、僕を愛してるって言ってくれるのなら、他には何も要らないの」
「…………」
僕は、まともに赤面して。
「……不意打ちの、お返しですか」
「違うよー?きれいサッパリ僕を忘れ去ってくれていた正チャンと違って、僕は10年も正チャンのこと、だーいすきだったんだもん?」
「……これから先は長いので、5年ばかりの記憶の消失が誤差になる程度に、僕は貴女を愛すると誓います」
貴女が、結婚式は春がいいと言った。
花嫁の花冠に、白木蓮の花を飾りたいからと。
「……綺麗、ですね」
「もう。正チャンてば、それ以外の褒め言葉はないの?」
「語彙が貧弱ですみません」
僕は、もう少しで教会に入場する僕の花嫁を見つめ、違う言葉を探した。
「白蘭サンが、あまりにも美しい花嫁なので、僕は花婿と言うより従者のようです」
「そーじゃなくてっ!!」
花嫁が、白い手袋をした細い指を、ビシィと僕に突き付けた。
「今の科白の、前半部分だけでいいの!!」
「……………………………」
僕は、緊張の汗でずり下がる眼鏡を直すと、やっぱり僕はカッコ悪い…と思いながら、目の前の、まさに花嫁と呼ぶに相応しいひとに告げた。
「貴女が…あまりにも美しい花嫁なので、見蕩れました」
「……うん」
美しいひとは、とても幸福そうに笑った。
だから、僕もとても幸福で。
……もう少しで、結婚式が、始まる。
〜Fin.〜
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