12-こまること

 
「ごめんね…。何だか、いつも無口なお父さんにしては珍しく、質問責めにしちゃって」
「いいのですよ。オレは今日、入江殿のご家族の、質問や疑問に答えるために来たのですから」
「うん…。多分、色々分かったと思うよ。幻騎士が、僕と真面目に付き合ってくれてるひとだっていうこと……」

しかし、正一は、俯きがちにかーっと赤くなった。
……あと、日頃僕がくらくらしてる感じに、天然に糖度が高いということが!!

幻騎士は、紅茶色の髪から覗く耳が赤くなっていることに気付いて、くすりと笑った。

「イタリアでは、愛を語って語り尽くすことは無いのですけれども、日本人にはショックが大きいようですね」

……僕&家族の誤作動、バレてた!!

「尤も、入江殿にとっては、いつもと同じオレだったと思いますが」
「う、うん…そうだね」
「申し訳ございません」

幻騎士が詫びたので、正一は意味が分からなくて、幻騎士は見上げた。

「どうして謝るの?」
「恋人にしか見せない顔、伝えない言葉、というものもあるでしょう?それを、今日はそのままご家族にも明かしてしまったので。入江殿にとっては、秘密にしたいことだったのかも知れません。でも…オレは、貴女のご家族だからこそ、伝えたかったのですよ」
「……何のこと?」

幻騎士は、微笑んだ。
「オレが、貴女を愛しているということを」
「〜〜〜〜〜っ」
「オレが、いつまでも貴女の傍に居ると約束していることも」

エレベーターに乗ると、幻騎士が正一の手を取り、左手の薬指にくちづけた。

「……愛しています。オレだけの、姫君」

今日は、家族の前だったので、贈られた指輪はしていない。それでも、そのくちづけは、確かな誓いの証のように。

エレベーターからホールに出て、外に向かって歩き出すと、幻騎士は、穏やかに言った。

「……貴女が、初めてだったのですよ」
「え…?」
「オレは、誰かを幸せにしたいとも、己に出来るとも、思ったことは有りませんでしたから」
「…………」
「オレに、人のぬくもりを教えて下さったのは、入江殿です。誰よりも傍に居て、守りたいと思ったのも、愛おしいと思ったのも。オレにとっては貴女が初めてで……」

幻騎士の手が、正一の髪にふわりと触れて、その手はそのまま正一の頬へと辿った。

「貴女ひとりだけでいいと、思いました」

……見つめ合ったまま、動けない。
でも、近付く吐息に目を閉じて、正一は、頬に触れる唇を感じていた。

くすりと、幻騎士が笑った。
「……結局、オレの心など、全て明かしたようなものですね」

正一は、その声でキスの終わりを知り、真っ赤になった。

(オレにとって彼女は子供ではなく、唯一大切な女性です)

「じゃあ…あの、どうして……」
今じゃないの…?そう言いかけて、正一は言えなかった。

幻騎士は、正一を子供扱いしている訳ではない。
正一の両親も、あんなことは言い出したけれども、付き合ってまだ数ヶ月の男が、正一に求婚したとなれば、軽率だと思うのに決まっている。
それに、現実の正一も、高校生の次は大学生になるのだろうし、当分の間は親に養われて生活するのだ。

思えば、先は本当に長くて……、それでも幻騎士はずっと傍に居るという約束を、正一と交わしてくれたのだ。
先を急ぎたくはない、そう言ってくれたのは幻騎士の優しさで、常に今その時の正一でいい、愛していると伝えてくれた幻騎士は、本当に正一を大切に想ってくれている。

「イタリアの恋人同士は、毎日のようにデートするのが当たり前です」
「え…、そうなの?」
「独り暮らしなら、どちらかの家に行くのですし、親と同居ならごく普通に一緒に食事をします」
「そう、なんだ……」

今日、正一の一家は、幻騎士を招くことは考えていても、その後一緒に夕食を取るところまでは考えていなかったはずだし、或いは正一がこれから、幻騎士と再びデートに行くとも思っていなかったはずだ。

「ですから、いつかお伝えした通りに、オレは貴女が思っているよりも貴女に逢いたいのですし、……別れ際は名残惜しい、そう思うのですよ」
「……うん」

想いは、同じ。
なのに、車の所まで着いて、しばしの別れが来る。

「入江殿」
「何?…あ」

幻騎士が、正一をふわりと抱き締めて、正一はそのぬくもりに、トクンと心臓が鳴った。

「正式に貴女を得てもよい……。そのような許可を貰ってしまったら、オレはセーブが利かなくなりますから」
「え……?」

幻騎士は車の運転席に乗り、ドアを閉めたけれども、代わりにドアウィンドウを開けてくれた。

「このまま、貴女を連れ去りたくなる。貴女を、帰したくなくなる。……それでは、入江殿を困らせてしまうでしょう?」

ではまた…と。幻騎士はいつも通りに優しく告げて、車は走り去った。
そこには、真っ赤なままの正一がひとり残されて。

……少しだけ、困らされてみたい…なんて。
言ってしまったら、困るのは優しい貴方の方なのかな……?

なんて、ちょっと思ってしまったことは、秘密。

[ 90/100 ]

[*prev] [next#]
[図書室46]
[しおりを挟む]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -