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きっと、こういう事には勢いが必要だ。

ふたりきりの誕生会が終わり、晴れて24歳になった入江正一は、チャブダイの向かいの席でスパナがじ〜〜〜っと自分を見ているのが何とも落ち着かない…!と思いながら、実家の番号を呼び出して通話ボタンを押した。

trrr.......trrr.......

『はい、入江です』
「……ああ、母さん?僕だけど」
『僕僕詐欺?』
「声で分かるだろうに、下らないことを言わないでくれないかな!正一だよっ!!」
『あらあら、正ちゃんったら大きな声出して。元気そうねえ♪』

……ああ。いつも通り、母さんとは話が噛み合わない。やっぱり、こういう大切な事は、父さんに先に話を通すべきだと思う。

「ああ、元気だよ。だから、僕の元気が健在なうちに、父さんに代わってくれないかい?」
『珍しいわねえ。どうしてお父さん?お母さんが伝言してあげるわよ』
「直接言いたいんだよ!とにかく、父さんに代わって欲しいんだけど!!」
『そんな事言ったって、出張で明後日まで帰らないんだもの〜。仕方無いでしょ?』

……家に電話をかけるタイミング、完全に間違ったよ、僕……

と思いながら、正一がチラッとスパナの方を見ると、美人なのにどうしてか子犬っぽい表情は、期待と不安が入り交じっているように見える。
つまり、これ以上不安にさせるのは、今まで寂しい思いをさせてきてばかりだった正一としては、もう死ぬ気で避けたい。

「じゃ…じゃあ、伝言を頼みついでに、母さんにも聞いて欲しいんだけど」
『改まっちゃってどうしたの?』
「改まりたい気分なんだよ!!こ…今度帰省する時の話なんだけど!そ…その」

何を、今更口籠もってるんだよ僕!これ以上ヘタレてると、スパナが
「正一、無理しなくてもいいよ。ウチ、プロポーズして貰っただけでも十分幸せだ。年末年始に独りぼっちになるのくらい、大丈夫だから……」
とかなんとか、けなげ過ぎる感じに言い兼ねない。

という訳で、正一は死ぬ気で叫んだ。つもりが、もそもそと小声になった。

「紹介したい人がいるから……僕と一緒に連れて帰りたいんだけど、いいですか」←口調だけ改まってしまった

沈黙10秒。

『ちょっ…!正ちゃん!!それって、もしかしてお嫁さんなのっ!?』
「もしかしなくてもそうだから、改まっちゃったんだよっ!そういう訳だから、恥を掻かないようにキッチリ大掃除しておくように!お客さん用の布団がカビてないかしっかり確かめておくように!おせちは全部手作りしろなんて言わないから、スーパーで買って手抜きをするのは半分以下に抑えて欲しい!それかr『キャーーーッ!!正ちゃんにお嫁さん!?お嫁さん!!!』
「連呼しない!!少しは落ち着いてくれないかい!?」
『式はいつにするの!!』
「そ、そこまで決めてないよ!でも、入籍は出来るだけ早くって、思ってる、けど……」

再び、正一はちら、とスパナを見た。

「あ…あの。スパナ。僕は、両親の許可が出たら、入籍はすぐにでも……と思っていたんだけど。それで、いいのかな……」
「うん。ウチ嬉しい。イタリアでは同棲止まりのカップルも結構多いんだ。なのに、ウチのことちゃんと奥さんにしてくれる正一は、Sincere で Passionate。ウチ幸せだ」(注1)

色白の頬を染めて、本当に幸福そうな笑顔。
正一は、言葉に詰まった。
 
(スパナ…。君の残りの人生の、笑顔を全部、僕に…下さい)

今更、思い知る。スパナはいつだって正一を深く愛していてくれたのだし、その輝くような笑顔は、正一の言葉ひとつ態度ひとつにかかっていたのだと。
それなのに、6年もの間、秘密の交際にして、スパナには寂しそうな顔ばかりさせてしまった。……もう、そんな事は、したくない。

『んまあああ!!私、正ちゃんってば絶対に晩婚タイプだと思ってたのに!正ちゃんは人見知りだし押しが弱そうだし、30代後半になってからお見合いで結婚を決めるタイプよねぇって明子と話してたのよ〜』
「どうせ、僕はヘタレだよ!!ヘタレなりに、僕も今回はかなり頑張ったんだよ!!」
『ちょっと〜明子ーーー!!正ちゃんが、今度帰省する時に、お嫁さんを連れてきちゃうんですって!!キャーーー!!!』
「キャーって何だよキャーって!!それに、何で姉さんに言うんだよ!!」
『正一っ!?あんた、私より先にお嫁に行くとか、いつからそんなに生意気になったのよ!!』
「ちょっ…、姉さん!?何を誤作動してるんだよ!!僕はお嫁さんを貰う方だから!!」
『とにかく!!23歳のお子様の癖に、結婚なんて1万光年早いのよっ!せめて私より後にしなさい!!』
「僕24!今日で24!!僕の誕生日なんて、姉さんは勿論、母さんも忘れていそうだけど!」
『あらあら、そんな事言っちゃダメよ明子。正ちゃんはこのチャンスを逃しちゃったら、きっとアラフォーまで独身よ?』

……何だか、もう話が逸れまくりだ……
と、正一は遠い目になった。やはり、日を改めてでも、真っ先に父に話を通すべきだったような。

とにかく、電話は再び母に回ったらしいので、正一は再度言った。

「僕は彼女にプロポーズしたんだし、誰にも恥じない形で一緒に暮らしたいと思ってる!だから、ちゃんと母さんにも父さんにも紹介したい、……って、明後日お父さんが帰ってきたら、そう伝えて欲しいんだ」

正一は、それだけ言うと通話をオフにした。
電話口の向こうでは、まだ母と姉が大騒ぎしているようだったけれども、これ以上は話が迷走するだけなので、ここで終わらせておくのがいいと思う。

「……正一。ウチ、本当に付いてっていいのか?何だか、電話の向こう側、かなりエキサイトしてたみたいだけど」
「うん。驚いてむやみにキャーキャー言ってたけど、基本的にはしゃいでいるんだと思う…多分。でも、今回の帰省のことは……寧ろ、僕が一緒に来て欲しいって、スパナにお願いしたいんだよ」

正一は、座布団から出ると、スパナのすぐ傍に腰を下ろした。そのままスパナの肩に腕を回し、抱き寄せて言った。

「一生君と居たいって……それは、高校時代から代わらない、僕の望みだから。何があっても、僕は君の傍に居たいし、スパナと結婚したいんだ」
「正一……。ウチも、ずっとずっと、正一と一緒に居たいよ……」

見つめる、綺麗な海の青にに、金の睫毛が伏せられて。
正一はそっと、スパナと唇を重ねた。


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注1:Sincere/誠実でPassionate/情熱的だ正一。
明子:原作には名前は出てこないのでアニメ設定?正一の姉。


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