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「出てこいヒバリ!!」
「テメーの並中を荒らされたくなかったらな!!」

と叫ぶ某高校の不良の群れを、草壁は空き教室の窓から呆れ加減に見下ろして、小さく溜め息をついた。

「いくらうちの委員長が最強過ぎる感じだからって、女ひとりとバトルするのにどんだけ群れてえんだ?…50人ってとこか」
「先程カウントしましたが、54名です」

草壁は、不良の癖に生真面目な奴だと、1年生の部下の報告に応えてやった。
「構わん。4人5人なんざ、誤差の範囲だ」
「……どうしやしょうか?」
「どーもこーもねえだろうよ」

長ランの裾を翻し、草壁は窓から離れて歩き出した。

「風紀委員会会則第8条。風紀委員長の不在時は、風紀副委員長をその代理とする、だ。ちゃーんと覚えて置け、1年坊主」
「お、覚えておりやすが、……あのう、まさか、副委員長は独りで…?」
「会則によると、そのまさかだな」

草壁の1/3くらいの長さのリーゼントの1年部下は、言葉も無く仰天した。
1対何十人なんて多勢無勢は、お嬢様なのに無類の戦乙女で我らが女神、風紀委員長・雲雀恭弥だから無問題なのだ。

草壁は雲雀の次に強いので風紀副委員長、であることくらい部下は誰でも知っていたけれども、草壁哲矢はいくら強かろうが、神ではなくて人間だ。

「副委員長!!」
「……ああ、哀川。校舎その他学校設備の施錠は済んだか?」
「滞りなく完了しました。教職員及び生徒は、教室もしくは職員室から出ないように周知させました。風紀委員は、非常時Cパターンの配置で攻撃可能です」
「……攻撃は要らん」

哀川も、は?と思わず聞き返してしまった。

「は?じゃねえ。あの、群れてるバカどもが、どさくさに紛れてガラス割るだの鍵ぶっ壊すだのしねえように見張ってろ」
「それだけ…ですか?」

確かに、施錠はしたが力任せに壊すのは簡単なのだし、例えばガラスの面積が広い昇降口などは、如何にも割りやすくそこから校舎に侵入を許してしまえば、一般生徒に危険が及ぶ。
だが、やれやれといった口調で草壁が口にしたのは、別の理由だった。

「委員長は、学校の備品がちょっと破損しただけでキレてトンファー取り出すひとだっつーのに、校舎まで壊されたら怒り狂うだろーがよ。お前ら、しっかり守っといてくれや」

草壁は、2階まで階段を下りると、そのまま廊下の窓をカラリと開けて、逞しい巨体には意外な身軽さで、ひょいと窓枠に飛び乗った。

「オレが出てったら施錠しろ。ちょっくら行ってくる」
「ちょっ…!ちょっくらって、副委員長ひとりであいつらんとこ行くんですか!?」
「たりめーだろうがよ。雲雀恭弥の代理が群れるのなんざ、たとえ会則8条が無くても有り得ねえな」

草壁が、2階の窓から校舎の外に飛び降りようとした、その時だった。

「草壁!!オレも極限に加勢するぞ、拳友よ!!」

ややこしい奴来た……と、草壁は遠い目になった。
入学当初、体格が良く番長と不良達に慕われていた草壁を、<最強の雲雀恭弥>と勘違いして、何度も勝負を挑んできた(程度に人の話を聞かない)生粋のボクシングバカだ。

「有り難い申し出だが、お前は手を出すな、笹川。ボクサーの拳はリングの中だけにしておけ。不良相手に乱闘なんざ、お前は自分のボクサー人生を棒に振るつもりか?」

まあ、マフィア相手にその拳を振るいまくりだということは草壁も知っているが、ここは方便だ。

「そ…!そうであっても、オレは多勢に無勢の戦いに身を投じる拳友を、見捨てることは出来ん!!」
「いーから見捨てろ。いくら天然なお前の妹でも、今回ばかりは相撲大会という言い訳は無理が有るぞ?」

うっと、シスコンは怯んだ。このまま、草壁よりも妹を優先して欲しい。
だが、少しの葛藤の後に、笹川了平は無駄に熱く叫んだ。

「京子ならば解ってくれる!!友を見捨てて逃げる男の友情などありはしないと!!」
「……おい、哀川と1年坊主。お前らはお前らの配置に付け」

草壁は、溜め息まじりに部下達をその場から追い払うと、絶対に効き目があるが、あまり気が進まなかった伝家の宝刀を抜く事にした。

「笹川。……お前は、黒川花を守るのに、てめえ以外の男を頼りたいと思うのか?」
「…………………………………」

純な笹川了平に、ズッガァァンと落雷した。
そして3秒白目になった後、顔中の毛穴から蒸気を噴きそうに真っ赤になりながら、どうにかぐるんと黒目を取り戻した。

「そっ…、そうか。お前とヒバリはそういう仲……い、否、オレは友情に賭けて、他言はせんぞ!!それに、そのような理由ならば、オレは決して手を出さぬ!!」
「ああ、是非ともそうしてくれ」

草壁は、……小っ恥ずかしい、と不機嫌に独りごちると、窓枠を蹴って黒鳥のように地面に降り立った。ざわ、と不良54名の群れが揺れる。

「おい、オレが相手をしてやる。群れるとうちの女王陛下が不機嫌になるんで、オレ独りで我慢しろ」

草壁は草壁で、プロの極道も一目置くほどの男だ。しかし、草壁の言葉に、高校不良からは哄笑が起こった。
確かに、雲雀恭弥が群れを嫌うというのは有名な噂であり、事実彼女の戦闘スタイルは常に単独戦だ。

だが、それはあの<ヒバリ>だからであって、いくら草壁でも1対54とはまた、ずいぶん無謀な賭けに出たものだと、誰もが思ったのだ。

「何だ?草壁お前、美人と巨乳に弱いタイプか?すっかり飼い慣らされてんじゃねえか」
「ノーコメントだな。んな風紀乱れたことは、思っててもうちの委員は全員言えねえのよ」

ニヤリと草壁は笑っただけで、挑発には乗らない。……余裕さえ感じさせるのは、何故なのか。
不良集団の何人かは、一瞬イヤな予感がしたが、今回の襲撃は複数の高校から腕の立つ者が組んで連合したのだから、負ける訳が無いと雑念を振り払った。

「ヒバリはどうした。怖じ気づいて出てこられねえのか?」
「その侮辱は、オレが覚えて置くぜ?……後悔するなよ。オレは、委員長ほど手加減が上手くねえ」

今度は、全員がゾクリとした。草壁の殺気に。

「何人群れようが、てめえらの相手に雲雀恭弥を出すのは勿体ねえんだよ。……そっちが来ねえのなら、オレから仕掛けるぜ?」

斯くして、1対54名の、不良バトルの幕が切って落とされたのだった。

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