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「今日はクリスマスイブですね」
「だからどうしたの?」

ツンとして愛想の欠片も無い返事に、風は困って微笑した。

どうも、自分はこの少女に好かれていないらしいことは分かっていたつもりなのだけれども、いつもいつも素っ気なくされるのは、少し胸が痛い…と思う。

「……私は、この家を出て行った方がいいのでしょうか?」
「誰も、そんな事言ってないでしょ!」

ということは、自分はこの屋敷に居てもいいのだろうか?と風はやはり考え込んでしまった。
この、取りつく島もない感じの少女は、多分本気で風を遠ざけたければ、ハッキリと「邪魔。出て行って」もしくは「今更帰ってくるとか、何を勝手なことを言っているの?♪しねばい(ryっていうか咬み殺す」……くらいのことを言うだろうとも思うのだ。

「恭弥。プレゼントに、何か欲しい物はありませんか?」
「……プレゼント?」

やっと、雲雀は風の意図を理解した。
だが、それだけにイラッとした。

「元・アルコバレーノ風こと本名雲雀風。君も、雲雀家の人間なら知っているはずだけど?この家には、西洋のイベントをやる習慣は無い。当然に、僕の所にはサンタになりすましたお父さんからプレゼントが届いたことも一度も無い」

冬は振袖に打掛姿が標準仕様。何処の城の姫ですか的な雲雀恭弥は、脇息にもたれながら扇をパチンと閉じたり開いたりしながら、イライラする気持ちをやり過ごした。

雲雀家では、古来のしきたりに依り数え年カウントであり、新年を迎えた時に一斉にひとつ年を取る。だから、5月5日だからと言ってその日にお誕生日ケーキやご馳走でお祝いしてもらったことなど無い。プレゼントを貰ったことも、雲雀の記憶には例外なく存在しないのだ。

誕生日ですらそうだったのだから、クリスマスなどというイベントなど、やる訳が無い。

「恭弥は、サンタさんに来て欲しかったのですか?でも、私が恭弥のサンタさんになるのは、問題が有るような……。妙齢のお嬢さんの寝室に深夜に忍び込むというのは、流石に私も躊躇いますので」

ずがーん、と雲雀に落雷した。
並盛一物騒華麗にして、同時に何の矛盾もなく清純可憐。

「風、そっちかい!?」
「違うのですか?」

雲雀は、眩暈がした。
どうも、この風という年上の親族は、悪気は無くかなり天然だ。善意の塊だ。だが、その「悪気は無い」のが、一番たちが悪い。
要するに、本人が無自覚である以上、何を言っても無駄だからだ。……もういい。サンタの話題はスルーしよう。と雲雀が思った時だった。

「プレゼントというのは、きっとあげる方の人間が、知恵を絞って一所懸命考えるのが、心が篭もっているのが分かっていいのでしょうね。……でも、恭弥はきっと、お金で買えるものは、誰かに頼んだりイベントを待ったりするまでも無く、既に全て持っているのでしょう?」

柔らかく笑った風に、雲雀は確かに意表を突かれたのだった。

本当に、風の言う通りだったからだ。
雲雀は、天性の戦闘者であるだけでなく、ごく幼い頃から権力者であり人間や富を自在に操る才に長けていた。それ故に、金でけりがつく程度のものならば、即座に手に入れてきたのだ。

「ふぅん…。貴方にしては、案外的を射た発言をするじゃない?貴方の言う通りだよ。僕は、特に欲しい物は無い。あるとしても、僕はずっと、他人に頼ることもイベントを待つことも一切必要とせずに、自分の力だけで手に入れてきたのさ。例外は無い」

くだらない。プレゼントなんて。
この僕を、モノで釣られるような俗物と一緒にしないで。……だから、要らない。

「はい。ですから私も、権力やお金では手に入らないようなもので、恭弥が嬉しいと思うものをプレゼントしたい…と思ったのです」
「…………」

雲雀は、何だか泣きたくなった。
風は、いつもそうだ。思ってもみなかった方向から、いつの間にか雲雀の心に辿り付いてしまう。

なんて、思わせ振り。……ううん、違う。

風は、さっき風が口にしたように、「心が篭もっているもの」を雲雀に贈りたいのだろう。
そして、今回もこれっぽっちの悪気も無く、本当に善意ばかりで雲雀の笑顔が見たくてそう言っているのだ。

……僕は、貴方がそう望む度に、笑顔なんてどうやって作ればいいのか分からなくなってしまうのに。
それに、言ってみたところで何になるというの?人の心は、お願いしたからって手に入るようなものじゃないのに。

「また…私は何か、恭弥を怒らせるようなことを言ってしまいましたか?」

風は、やはり困って雲雀を見つめた。
が、ふと気付いた。違う。きっと、雲雀は……

「それとも、悲しいお顔…ですか?」

どうしてなのか、風には分からなかった。
でも、気遣った風が、その手を伸ばして雲雀の頬に触れると、雲雀は最強の戦乙女らしくもなく、ビクッとして身を引いた。

「……すみません」

風は、行き場をなくした自分の手を、そっと引いた。
贅沢な望みだったのだろうか。雲雀を喜ばせたいと思うことも、きっと愛らしく綺麗な笑顔を見たいと思うことも。

「もし…恭弥が何か思い付いたら、言って下さいね。私は今日特に用事はありませんので、1日家にいますから」

風が、席を立つ。……行ってしまう。

「……ちょっと、待ってよ!」

雲雀は、思わず引き留めていた。

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