Shoichi side.T

それは、未来の科学者が集う夢の祭典。高校生国際ロボット大会で。

「あんた、日本のチームリーダーだろ?」

いつの間にか至近距離に居た長身の彼に見下ろされて、僕は驚いた。どうしてか火照る頬を恥ずかしいと思いながら、言葉もなく小さく頷くことしか出来なかった。
彼が話しかけた言葉が、流暢な日本語だったのだと気が付いたのさえ、少し経ってからのことだった。

「ウチ、イタリアのチームリーダー。スパナだ」

……名前以外のことなら、僕はもう知っていた。
僕は、各国のロボットや対戦形式を分析する為に、出来るだけ他国の試合も観に行っていたから。

イタリアの試合を観ていて、すぐに気が付いた。
この、金髪碧眼の少年…と言っても、白人の彼はだいぶ僕より大人びて見えたけれども……彼が司令塔なんだって。そして彼は、世界の舞台だというのに緊張した様子もなく、ただただロボットが好きなんだって、その瞳を輝かせているのだということに。

緊張すると、「好き」という気持ちなんか吹っ飛んで、「上手くやらなきゃ」って、そればかりで頭がいっぱいになって、すぐにお腹を痛くする僕と彼とでは、大違いなんだってこと……

「ヨロシク。ウチの憧れの、ハイテクと緑茶とチャブダイの国・日本のヤマトナデシコ」

……何だか色々違う!!
と思ったけど、差し出された手は、きっと握手なんだろうと思って、僕は自分の手を差し出した。

ちっぽけな東洋の割り箸(別にまな板でもいい)の僕の手よりも、ふた回りほど大きくて、あたたかくて、優しく包み込まれてしまったみたいで、僕の心臓が跳ねた。

Tシャツにジーンズでも王子様、みたいな端正な彼の顔立ちと、彼の手の印象は全然違っていた。ちょっとざらついていて、多分マメとか胼胝(たこ)とかあって、……以前、僕のお祖母ちゃんから聞いたことがある。

「働き者の、手……」

思わず、零れるように口にしてしまったら、海の色の瞳が、少し驚いたように僕を見て、次の瞬間には、僕が真っ赤になるしかないような甘い微笑を浮かべて僕を見つめた。

「そういう風に言って貰えるの、嬉しい。ウチ、小さい頃からじいちゃんと一緒にジャンク屋やってて、暇さえ有ればメカ弄りしてたから」

……過去形?

「ああ。祖父ちゃん死んでしまったから、今ジャンク屋はウチひとりでやってる」

……無神経な事を言った。
所詮、平和ボケした国で、当然のように親にすねかじりして、甘えていることにすら気が付かないまま、私立高校に通っていた僕は。

「ヤマトナデシコ。ウチ、あんたって言いたくない。…名前は?」
「や…大和撫子なんて、僕はそんな上品な生き物じゃないんだけど!!……入江正一」
「じゃー、正一って呼びたい。正一の手は、白くって、柔らかくって、綺麗だ。お姫様の手」

……違う。僕は、お姫様なんかじゃないのに。
確かに、僕は十人並み以下の眼鏡っ娘の癖に、手だけは綺麗だって言われたことがある。でも、それは僕のお祖母ちゃんが言っていた通りに……

(お手伝いもろくにしない、働かない者の手だ)

「……僕は、働き者の手の方がずっと綺麗だと思うし…好きだよ」

言ってしまってから、僕はかーっと真っ赤になった。手限定とは言え、初対面の男のひとに、好きとか言ってしまった…!

「正一、熱でもあるのか?」

その手は、握手から僕の手を解放してくれた代わりに、そっと僕のおでこに触れた。
あったかい手。優しい手。……やめて。心臓が、おかしくなりそう。

「平気…。世界大会なんて、こんな大舞台は初めてだから、緊張してるだけなんだ」

そっか、って。彼は柔らかく笑った。

「紅茶色の髪」
「え…?」
「綺麗だ」

長い指が、僕の赤茶の癖っ毛を梳いて、僕は真っ赤なままフリーズした。

「混血か?」
「……違うよ。……突然変異。家族の誰にも、僕は似てない」

コンプレックスいっぱいの心のまま、初対面のひとに余計な事を言ったって、僕は後悔したのに。
彼は、優しく微笑んだ。

「綺麗だ。ウチは好きだよ」

動けずにいた。彼のざらついた手が、僕の癖っ毛を整えてから、そっと僕の頬に触れても。

「緑茶色の瞳も、神秘的」

緑茶…?の国とか、さっき言っていたような。でも、微妙……

「Jade(翡翠)の方がいいか?」
「りょ、緑茶でいいです!!」

クスリと、彼は…スパナは、甘く笑った。

「綺麗だ。…好きだよ、正一」

……流暢だけど、きっとまだ彼なりに日本語に慣れていないんだろう。
スパナが好きなのは、紅茶色の髪と緑茶色の瞳。……僕自身のことなんかじゃ、ないのに。

元から火照っていたのに、あたたかいスパナの手が触れた場所は、余計に熱を持ってしまったような気がして。
僕は、目を閉じた。

重ねられた彼の唇は、思うよりも柔らかくて。
僕は、きっと夢を見ているんだと、思った。

スパナの、海の色の瞳と、光を帯びたような金の髪の方が、ずっと綺麗なのに。
でも、彼は背が高くて。そして僕は意気地無しで。彼のさらりとした金の髪に、僕の手は届かないままだった。

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