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3ヶ月間に及ぶツアーの最後、凱旋コンサートを終えて、正一は楽屋でひとり、差し入れの缶コーヒーを飲んでいた。

(白蘭サン…来てくれてた)

正一がプレゼントした、最前列の席に。

朝一番の電話でも、「お帰り、正チャン。絶対聴きに行くからね」と言ってくれたのだから、当たり前なのだけれども。
その姿を見るのは3ヶ月ぶりで、何だか夢みたいだと正一は思ってしまったのだ。

(僕は君を…君だけを、愛しているよ)

(僕の正チャンへの気持ちはね、名前を付けるのなら……平凡にも、<恋>って言うんだよ)

(ずっとずっと見守っていたくて、いつまでも誰よりも傍に居たいって……そんな、終わりのない気持ち)

思い返す度に、頬が火照る。
胸が震えるように嬉しくて、幸福で。その優しく甘い言葉も、交わしたくちづけも、やはり夢のようで。

「ショーイチ。お客様です」
「あ…はい。どうぞ」

マネージャーの声に、正一は物思いから引き戻され、トクンと脈打つ心臓を感じながら振り返った。
「白蘭サン…?」

「ハハン、申し訳ありませんね。白蘭ではありませんが、こんにちは。可愛い小鳥さん」
「へ?は、はい?あの…こ、小鳥さん???」

ドアをくぐって入って来たのは、長身に長髪の、何だか華麗すぎる感じの男だった。

「私は、ただの小鳥さんじゃなくて、<可愛い子鳥さん>と呼んだのですが?」
「あ…あの!可愛くないです!!僕、モヤシで時々間違われるんですけど、男なので!!」
「間違われる程度に、可愛らしいのでは?それとも、撫子の妖精さんの方がいいですか?」
「…………………………………」

正一は、ぐらんとして口から魂が抜けそうになりながら、かろうじて脳味噌の隅っこで考えた。
この、華麗すぎてド派手なルックスには、見覚えがあるような……

「.......Mr.Jie Geng ?」
「ハハン、初対面で名前を言い当てて貰えるとは光栄です。私としたことが、失礼しました。こんにちはと言うよりも、初めまして、でしたね。既に白蘭から色々話を聞いていたもので、あまり初めてと言う気がしなかったのですよ。それから、私の名は日本語で桔梗、で構いません」

そう言えば、楽屋に入ってきた時から、彼はずっと流暢な日本語だったのだと、正一はやっと気付いた。

「私を知っているのは、3ヶ月前に発売されたビジネス誌辺りですか?」
「は、はい。拝見しました」
「どう思いました?」
「えぇと…白蘭サンと並ぶと、フローラル度が倍加されて、華がありすぎる感じにファッション誌かと」
「…………」

正一は、記憶を辿りつつウッカリ言ってしまって、
「す、すみませんっ!!」
「白蘭はともかく、私なら単にド派手でも構いませんよ?」
「すみませんでした!!!」

ペコペコと頭を下げまくって、今は日本語なのですみませんだが、きっと英語では Sorry を連発しまくりであろう、どうやら日本人代表。と、桔梗は目を細めた。
確かに、卑屈と言うよりも「奥ゆかしい」という風情で、しかもすぐパニックになる様子が、何だか小動物的に、

(可愛らしくて、つい弄りたくなりますねえ?白蘭)

「だから、謝らなくてもいいのですよ。私も白蘭も、狙ってやっているのですから。日本ではともかく、このアメリカでは目立った者勝ちです」
「そ…そうですか。僕、地味ですみません」

狙ってやってたのか……そうかもしれない。と、正一も脳裏に白蘭を思い浮かべて思った。
白蘭もまた、確かに何もしなくても人を惹き付ける天賦の才を持っていながら、それだけでは済まさずに、自分の意志で狙って更に多くの人間を虜にしてきたのだろう。

……囚われてしまった、僕は……?

「心配しなくても、白蘭は貴方限定で、これっぽっちの計算もしていませんよ?」
「ぼ、僕何も言ってないんですけど!!」
「ふふ、恥じらう貴方も可愛いですが、そんなに動揺しなくても大丈夫ですよ。何しろ、これから貴方と白蘭が住むことになるコンドミニアムを紹介したのは、私ですから」

そんな縁も有ったのかと、正一は驚いて桔梗を見つめた。

「徹底したプライバシーの確保と、優れたセキュリティシステム。深夜に貴方が歌っても、ギターやピアノを弾いても、全く差し支えない防音性。……つまり、住み心地が良い事と、貴方の個人的なスタジオになる事の両方が可能である物件ですよ」

桔梗は、にこりと正一に微笑みかけた。
「それが、白蘭があなた方の新しい住まいに求めた条件でした」
「…………」
「私は、白蘭の惚気話にもさんざん付き合わされましたが、その条件だけで、白蘭がどれだけ貴方に夢中なのか分かると言うものですよ」

ゲホゴホと、正一はむせた。

「おや…、大丈夫ですか?妖精さん」
「……ふ、普通に、入江か正一か、どっちかでいいです!!」
「普通では、ド派手な私としては面白くないですね。白蘭の小鳥さん、辺りでどうです?あまり可愛い可愛いと言うと、白蘭が見境無く妬いて厄介……ああ、それはそれで面白いことになりそうですね」
「…………………………………」

(見かけ通りに、エレガントで過激なトモダチだよ♪)

何か色々……白蘭サンの言う通りだった……

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