〜Shoichi side.1〜
僕は、貴方の世話を焼くのが好きでした。
「ダメじゃないですか!白蘭サンっ!!」
って、本当は大人だった貴方を、どーしよーもないいたずらっ子扱いして。
貴方のことを、気紛れで、我が侭で、しっかり僕が見ていてあげなきゃダメな困ったひと、っていうことにして。
(アハハ、僕ねえ、正チャンが傍に居てくれなきゃ、本当ダメな男なの)
そうでしょう?…だなんて、僕は口に出しては言わなかったけれども、ちょっと得意な気持ちでいたんです。
(だから、ずっと僕の傍に居てくれるだろう?僕の正チャン)
(誰が、誰の正チャンですか。寝言は寝て言って下さい)
(あ〜あ。正チャンってば、今日もつれないなー。…でも、僕はネバー・ギブアップなんだよ♪)
大学始まって以来の天才、なんてご大層な噂を纏っていた僕だけれども、そんな僕でさえ一目置かざるを得なかった、本当の天才が貴方でした。
だって、僕は努力の塊だったけれども、僕は貴方が努力している姿を、ただのいちども見た事が無いんですから。
でも、とてつもなく聡明に過ぎるがゆえに、貴方は案外簡単な事に気付かないのだと、僕は少しだけほくそ笑んでいたんです。
(ギブアップも何も、僕なんて出会ったときから、貴方だけのものだったのに……白蘭サン)
何でもゲームにしてしまう、そんな貴方だから、僕は教えてあげません。
だって、もうとっくに僕が貴方のものだというのなら、この<ゲーム>は貴方の勝ちで、GAME OVER。貴方は、手に入れたモノに対する興味は、オモチャに飽きる子供のように、アッサリと失って放り出してしまう……やっぱり、困ったひと。
努力もしないで、何でも手に入ってしまう、だから一所懸命になって手を伸ばすことも、息を切らして追い着いて何かを手に入れることも、何も知らない、可哀想な天才。
何でも簡単だから、何でもつまらない、この世界の何も愛せなかった、可哀想な可哀想な、貴方。
僕ひとりくらい、さいごまで貴方の思い通りにならない何かが有った方が、貴方の世界は少しは綺麗でしょう?
本当に、困ったひと。
「僕はこの世界をぶっ壊して、gr8な新世界の神様になってやるんだよ」なんて、とんでもないことを思い付いて。
それを実行出来てしまうだけの、人智を超えた力をも貴方は持っていて。
でも、そんな不遜と傲慢を、この世の神様が許すはずも無く。
バベルの塔が神の怒りに触れて、その雷(いかずち)で崩れ去ったように。
貴方もまた、この世界を愛していた綱吉君のX BURNER によって、跡形も無く燃え尽きてしまったのでした。
困ったひと、困ったひと、困ったひと。
取り返しの付かない死を、遂げてしまって。
僕を、置き去りにして。
僕は、たったひとつの可能性に、賭けていたのに。
(正チャン、ゴメンね?)
(やっぱり僕は、君が傍に居てくれないとダメみたいなんだ)
(いっぱい叱ってもいいから、僕を許してくれる…?)
僕が何も言っていないうちから、叱られた子犬みたいな瞳をして、そう僕に貴方が告げてくれたなら。
貴方が、たったいちどだけの敗北を認めてくれたなら。
僕は貴方を抱き締めて、僕は一生貴方のものですと、種明かしをしてあげたのに。
(本当、仕方が無いですね、白蘭サンは)
(ほら…やっぱり、貴方の傍には、僕が居てあげなきゃダメでしょう?)
貴方の方から、僕を必要だと言ってくれたなら。
貴方はきっと「僕の負け、正チャンの勝ちだよ」なんて、またどこまでも困ったことを言うのでしょうけれども。
僕はそんな事はどうでも良くって、次はゲームじゃない貴方との新しい何かを、築いていける。
貴方と、ふたりで。
……なんて。
そんな願いを、本当は、泣きだしてしまいたいような想いで、この胸に抱いていたんです。
未来の僕は、貴方を失って、誰も居ない貴方の死に場所で独り、本当に大声で泣いて、大空に向かって貴方の名を呼ぶことしか出来ませんでした。
僕と貴方との間には、擦れ違う運命しか、なかったのだと。
運命と書いて、それは「さだめ」と読むほどに、僕は無力でどうしようもなかったのだと。
でも、それは<もう二度と実現しない未来の記憶>となりました。
僕が、どれほど嬉しかったか分かりますか?
だって、この時代には、この世界には、10年遡った貴方が、まだ生きていてくれるんですから。
……貴方に、会いたい。
でも、僕からは会いに行きません。
だって、僕からアクションを起こしただけで、もうそこで貴方の勝ちでゲームオーバー。そうでしょう?
迎えに来て……どうか、お願い。
生きている貴方に、もう一度会いたい。
たったひとつだけ。僕の願いを、叶えて下さい。
……白蘭、サン。
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[図書室43]
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