01

オレでもウッカリ間違えることがあるのかよ……と、遠い目になる感じに、アイツは絶世の美人だった。

キッカケは、最強を通り越して<無敵>とまで言われる拳法家が、中国にいると耳にしたことだった。
拳法なんて、それこそ無数に種類も流派も有るけれども、どれで戦っても自由、たとえそれが殺人拳と呼ばれるような、殺し屋稼業の人間しか知らないようなものであっても不問。実際に大会の中で命を落とす者など、特に珍しくもない。

……という、かなり物騒な大会で、2連覇している奴が居る。
しかも、少年と言っていいような若造であるらしい。

オレは拳銃使いで畑違いなんだが、最強と呼ばれたことはあっても無敵とまで呼ばれたことは無い。
だから、殺人拳上等のソイツに、個人的な勝負をふっかけてみたくなったという、オレにしてみりゃ久々にスリルのある好奇心だった。

実際に、その大会を見に行って驚いた。

西洋の<スポーツ>は、レスリングでもボクシングでもそうだが、ウエイトでランク分けしてその枠の中でしか戦わない。東洋発祥であっても、世界的に広まっちまった柔道もそうであるようにだ。
だが、東の果ての奴らときたら、ジャッポーネの相撲もそうだが、重い奴と軽い奴、でっかい奴と小さい奴を平気で同じ土俵で競わせるし、戦う側もそれが当たり前だと思っている。

……何だ、アイツは?

ゆったりとしたロング丈の拳法服は、まるで典雅なドレスが風に舞うように。
東洋人の中では殊更に小柄ではないのかもしれないが、ほっそりと華奢で、しかも乙女の中の花って程の超絶美人だ。

その美人の試合は、どれも短かった。
数回相手に技を出させれば、相手の動きを見切るのは十分なのだろう。美人の方から一撃が飛べば、それで全てが終わる。

しかも、美人は相手が気絶する程度に手加減をしていて、絶対にとどめは刺さない。
そして、あまりの速さに、大概の奴はあの美人がいつの間に相手を倒していたのか、見えねえし何が起こったのかわかんねーんじゃねえのか?オレは、見えていたが。

オレは、大会が終わってみたら圧倒的な実力差で3連覇を決めていた美人に近付いてみた。

「……誰かに依頼されたのですか?殺し屋さん」

オレが話しかける前に、美人は振り返る前にそう言った。
オレを振り向いて、オレとしたことがバカみてえに見蕩れるくらい、綺麗に微笑んだのは、その後のことだ。

「よく、オレが殺し屋だって分かったな」
「気配で。きっと、貴方は超一流の強者のはずであるのに、<気配が薄すぎる>のですよ。……それが不自然だと思ったのと、試合中にずっと貴方は私が何をするのかを観察していたので」
「そっちこそ、たいした観察眼じゃねえかよ、美人」
「そして、イタリア人ですか?」
「ソイツも、よく分かったな」
「初対面で、スラスラと美人と言ってのける、軽薄な感じが」

笑顔で軽薄とか言うんじゃねーよ。
だが、イタリア男のオレは、その程度の事でめげやしねえ。

「そんなん、口説き文句の数にも入りゃあしねえよ、東洋の牡丹。お前に秒殺された男どもも、お前ほどの美人の拳やら蹴りやらでぶっ飛ばされたのなら本望だろうよ」
「私は、そうは思いませんが」
「何でだ?」

美人は、案外実直に、困ったように笑った。

「あの…。間違われるのには慣れていますが、私は男ですよ?」
「…………………………………」

絶対に誰を相手にしても、隙のひとつも作ったことのねえ超一流ヒットマンのオレが、フリーズから解凍まで3秒もかかっちまったじゃねーか?
コレが実戦だったら、オレのお陀仏は決定だ。

「紛らわしい服着て、紛らわしいツラしてんじゃねーよ」
「そう言われましても…、私にはこれが動きやすいのですし、顔は生まれつきですし……」

コイツは、物騒な奴のはずだ。
一流の殺人拳を封じることが出来るのは、超一流の殺人拳を持った奴だけで、コイツはきっとオレと同じ闇の世界を知っている、殺しを経験したことがある人間なのは間違いねえ。

なのに、こうして喋っていると、拳法の才に恵まれただけの、年相応で素直な美少女……じゃねえよ。少年のようにしか感じられない。

「まあいい。お前はどうして、相手にとどめを刺さない?」
「倒せば私の勝ちです。それ以上の事をする必要はありません。……この戦いで3連覇したら、私は私の師匠の手元から離れて、自由に生きていい事になっているのです」
「つまり、殺しをしたのは、あくまでも<師匠>とやらの命令であって、お前は殺したくなかったって、そういう訳か?……風」

オレは初めて、こいつの名を……或いは通り名で本名じゃねえのかも知れねえが、呼んでやった。
だが、オレの問いに、風は困ったように微笑しただけで何も答えなかった。

「無敵、じゃなかったのか?そんな、辛そうな顔をしてんじゃねえよ。折角の美人が台無しじゃねえか」
「あの…ですから、私は男ですが」
「だからどーしたよ。東洋中の女が敗北する感じに、無敵のオリエンタル・ビューティーだろうが」
「……貴方は、どなたかの依頼を受けて、私を殺しに来たのではないのですか?」

違うと、オレは簡潔に応えた。

「中国に、最強を通り越して無敵の拳法家がいるってんで、他流バトルをしてみてえと思ったんだがよ。……その気が失せた」
「何故ですか?」
「あ゛あ゛?……仕方が無えだろう。オレは、真性殺し屋の拳銃使いだ。オレが勝つって事は、お前が死ぬって事だ。お前は、3連覇してやっと自由になれたばかりなんじゃねえのか?その翼をもいじまうほど、オレは悪趣味でも無粋でもねえ」
「…………」

ふふ、と美人は、その名の通り風が吹き抜けるように柔らかく笑った。

「……貴方は、優しいひとですね」
「バカかよ、お前。優しい奴が、超一流のヒットマンになれるかよ」
「それでも、私の前での貴方は、殺し屋ではなくひとりの人間として目の前にいてくれるのですから、優しいと私が思うのは自由でしょう?」

私は男ですとか、ブロックしておきながら、天然に思わせ振りの科白を言ってんじゃねーよ。
全く、オレは女にゃ不自由した試しがねえ超絶男前だってのに、何を東洋少年相手に、コイツだけは死なせたくねえだなんて、切羽詰まった気分で思ってるんだ?

「……惚れた方の負けとか言う奴かよ」(ボソ)
「え…?今、何て……」

オレは、言うだけ言ってみることにした。イタリア男は軽薄だとか、テキトーに聞き流しやがれ、畜生。

「るっせーな。二度言わせんな、小っ恥ずかしい。……オレは、お前に惚れたのかも知んねえって、それだけだ」

……オレは、驚いた。
目の前の、深紅の牡丹みたな美人が、みるみるうちに花のかんばせは勿論、耳まで綺麗に染まったからだ。

「かも知れない…なんて、からかわないで下さい……」
「……おい、お前こそ何だよ。かも知れねえじゃなくて、オレがズバリ<お前に惚れた>って言えば、お前は満足するのかよ?」
「し…失礼します!私は、これで…」
「待てよ」

オレは、脇を通り過ぎようとした無敵の美人の手首を掴まえた。
風が、染まったまま驚いた表情でオレを見る。……だーから。オレは拳銃使いだが、体術も超一流のプロなんだぜ?そんな顔をされちまったら、ターゲットは逃がしたくねえな。

自由になったお前が、オレを選ぶキッカケの言葉を、今くれてやる。

「オレは、お前に惚れてる。……風」

……隙だらけだぜ?3連覇した無敵の拳法家じゃねーのかよ。
その、花びらみたいな唇を、今オレに奪われてくれたのが、お前の返事って訳か?だが、言わせてみてえな。

「おい、その可愛い唇で、ちゃーんと言葉で、オレに返事をしてくれよ」

いくらかの沈黙の後、風は俯き加減にそっと言葉紡いだ。

「貴方の…名前を、私は知りません」
「ああ。リボーンだ」
「私は…。リボーン…貴方を、……好きに、なるかも知れません」
「…………………………………」

1本、取られた。
掴まえたつもりが、この思わせ振りに掴まっていてえのはオレの方かよ?

……だが、こんな甘美な敗北なら、悪くねえ。






〜Fin.〜


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