01

目が覚めたら、そこは病院だった。
思えば、病院を出てすぐに襲撃されたのだから当たり前なのだが。

何故、すぐに病院だと分かったのかというと、オレの枕元で、看護婦がオレの点滴を取り替えているところだったからだ。

「目が覚めたんだね。具合はどう?」
「普通に痛い。……だが、どうして姉貴が此処に居る」
「頭も打った訳?僕が看護婦さんだって忘れたの?」

……忘れてた。
オレは、仕事中の彼女に会ったことはほとんど無かったから。

「……コスプレかと思った」
「ぶつよ?」

と言う声は怒っているわけではなかった。
むしろ、微かな笑いとむやみな色香を放っていて、困ったオレは眉間にシワを寄せた。

「なぁに?難しい顔して。眉間にテープ貼ってあげようか」
「要らん」

黒目がちで、それでいて涼しげな目尻の、清らかさと艶っぽさを併せ持つ美貌。スカートから伸びる脚線美が眩しすぎる。
そして、所謂ボン・キュッ・ボンのメリハリは利きすぎるほど利いていて、看護婦の制服がはち切れんばかりだ。

ハッキリ言って、彼女にナースの制服なんてあまりにも似合いすぎで、オレの頭痛は別に麻酔が切れた所為ではないと思う。

「まぁ、最低でも1週間は安静だね。派手に骨折なんてしてくれちゃって、おじさんとおばさんが心配するよ?おまけに中学生のくせに4本も前歯が抜けてるだなんて、間抜けだったらありゃしない」
「返せ」
「しおれちゃってるけど?」

彼女は、オレが口にくわえていたはずの葉っぱをヒラヒラして見せた。
「まぁだ、この癖って抜けないのね。これって赤ちゃんのおしゃぶり?」
「違う!」

幼い頃、ドカベンを読んで岩鬼に憧れて依頼の習慣だ。
「じゃー何よ」
「男のロマンだ。女には分からん」

そこで話は終わりにするつもりだったのに、非常識なナースは他の入院患者どころか廊下まで聞こえそうな声で笑い出した。

「あ…はははは!お、男のロマンなんだ?……ぷ、くくく、甘えんぼの哲ちゃんが、いっちょ前の男みたいな事、言うようになったんだねぇ。ふ、くくくく……」

あからさまな爆笑に、オレは不覚にも首まで真っ赤になりながら喚いた。
「五月蠅い!仕事なのなら、用が済んだらさっさと行け!!……っ」
「そんなに大きな声を出さないの。君は何本も骨をやられてるんだよ?安静にしていないと響いて辛いでしょ」

オレの額に滲んだ汗を拭いてくれる仕種は、プロの看護師のものだ。

……大人だと、思った。
オレが物心ついたとき、彼女は今のオレよりも年下だったはずだが、それでもオレは彼女を大人だと思って育った。

その差が埋まることはない。
きっと、オレが大人になったって、彼女はオレを「哲ちゃん」と呼んで、こども扱いするのだと思った。

……悔しい。

「そんなに、痛む?」
「……平気だ」
「あまりしょっちゅうは使えないけど、酷くて眠れないようなときは言って頂戴ね。痛み止めの座薬入れてあげるから」

 座  薬 !!(ガーン)

「絶っっっ対、要らん!……っ、ぅう…」
「ほら、響くって言ったでしょう?おとなしくして。いい子だから……ね?」

嗚呼。
大部屋だというのに、多分この会話は丸聞こえだ。

並中生が謎の襲撃を受けるようになって、この病院は負傷した並中生だらけだ。だから、同室の者も、当然並中生である可能性が高いのに!

「葉っぱの代わりに、今はこれをあげる」
「は…?代わり??……んッ…!」

美少女系と美人系を兼ね備えた小さな顔が近付いてきた……ああ、それにしても、他は華奢な癖に、でかい乳だ……などとボンヤリ思っているうちに、オレの視界は焦点が合わなくなった。

「……!!…は、むぐ……」

柔らかな唇の感触が、オレの呼吸を妨げた。
突き放そうと思ったが、彼女側の腕も負傷しているらしく、固定されていて動かせない。

「……っ、ぷは!!」
オレは、頭をぶんぶんと振って、脳天がとろけそうなキッスから逃れた。

「オレを、殺す気かっ!」
「ふふっ、バカだね。呼吸は口じゃなくて鼻でするものだよ?口呼吸は身体に悪いんだから」

彼女は、こともなげに言うと、オレのベッドを覆っていたカーテンをシャッと開けた。
……それで、此処が4人部屋で、同室の者は、剣道部持田、空手部押切、ヒラの風紀委員一名、であることが分かった。

覚悟はしていたが、かなり恥だ。最悪の面子だ。

「じゃあね、哲ちゃん。何か困ったことがあったら、いつでもナースコールして?」
再び、チュッとハッキリ音を鳴らして、頬にキスされた。
嗚呼。この、悪気の無いキス魔を何とかしてくれ。

「いいから、特定の患者に馴れ馴れしくするな!お前は仕事中だろう、バカが」
「……誰に向かって口きいてんの?」<ビシッ>
「あだっ!!」←デコピンされた

彼女は、くす、といたずらに笑うと、モンローウォークで病室を出て行った。
その後、同室の連中から、どよめきと質問の嵐が巻き起こったのは、言うまでもない。

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