01

突然夜中に年頃の乙女がオレの家に訪ねてくるのは、どうかと思う。色々な意味で。

とりあえず、委員長が未成年であると言うことだ。しかも、名家の令嬢だというのに、親御さんやお付きの侍女達は何も言わないのだろうか?

そして、これは全く委員長に非は無いのだが、彼女が男の憧れも劣情も見境無く集めてしまう、大変美しい女性だということだ。こんな深夜に出歩いて、不逞の輩に襲われないのか?
これは、委員長が最強であってもだ。男の歪んだ欲望の対象にされることは、多分女性は本能的な嫌悪感と恐怖を感じるのではないか。委員長のような、清潔で潔癖な考え方のひとならば尚更。

それに、どうして委員長の行き先はオレの家でなくてはならなかったのか?
……まあ、オレは親が逃げてゆく形で独り暮らしなので、委員長はオレ以外の人間と群れなくても済むのだが。

「副委員長。君の疑問に答えようか?……僕も君とは違う意味で、とっくに親から見限られているのさ。既に、親を上回る権力と富を持っている娘なんて、彼らにしてみればどうしようもないだろう?」

余裕さえ感じさせる艶麗な微笑みだったけれども、オレは不用意なことを言ったと後悔をした。
オレは親に見限られて余計にグレたというのに。風紀委員の不良どもなんて、全員そうだ。

見捨てられたくらい、何だ?それで結局は、寂しいと伝える素直さを見せる勇気ひとつ持てずに、グレるという一番安易な方法を選んだ。そんな感情も行動も、ただの甘えだ。
現に、委員長は不良の頂点ではあっても、ご自分は不良とは程遠く、艶やかにも凜と咲く白百合のように毅然としたひとであるのに。

全く、決まりの悪い。
好いた女が、何事につけオレよりも強い人間であるということは。

「ふたつ目…大晦日の晩は、案外人通りが多くて安全なんだよ?」

……そう言えば、並盛神社も日が暮れてしばらくすると、屋台が軒を連ねて参道はかなり明るくなるのだと思いだした。

「まあ、不良の癖に硬派という建前の、案外堅物の君が、僕に向かって<大変美しい>と言ってのけたのは、評価しようか」

クスクスと、貴女は笑う。
時々思うのだが、委員長はオレの不遜な想いに気付いているのではないか。

「委員長を見て、美女でも美少女でもないと心から言ってのけることが出来る人間など、100人にひとりも存在しないのでは?」
「まあ、そうかもね」

しれっと言ってのけた。いや、オレが言い出した程度に異存は無いのだが。

「でもね、人間の好みはもっと複雑だ。客観的に美人でも好みではない、と僕を見て思う人間なら、多分5割以上の確率で存在するだろうさ。……君はどっちなの?哲」

委員長は、時折気紛れにオレの名前を呼ぶ。
哲矢ではなく哲、と。親しみがこもっているのかいないのか、この謎めいた美しい少女に関していえば、オレ如きの単純な頭では判別が付かない。

おまけに、言わせたいのか。
オレの方は、高嶺の花に恋をした時点で、とっくに白旗を揚げているというのに。

「……世界中の美女と美少女が敗北するんじゃないか、と素で思う程度に、好みですね」

委員長は、オレを見上げてきょとんとした。意表を突いたのであれば、オレは敗北しまくりのこの恋で唯一、一矢報いることが出来たのかもしれない。

「何ソレ?君は君で、世界中のどんな忠犬も敗北する感じの男だと思うんだけど。そんな態度しか取る気になれないほど、君にとっての僕は外見だけ好みで、中身は女としては最悪だってコト?」

……見透かされているのかと思ったら、案外鈍かった。…のか?

或いは、そう装って、明後日の方向に話をかっ飛ばして、白旗揚げてるオレの、更に本音を引き出したいのか。

それにしても、世界中のどんな忠犬も敗北する感じの男って、何その犬っぽいけどそうじゃないみたいな謎の生き物?どういう死刑宣告だ。
まあ、1年の終わりに死刑宣告から死刑執行ボタンが押されるというのも、それなりにいい区切りなのかも知れない。

「とんでもない誤解ですね。オレは不遜にも、貴女に犬ではなくただの男として恋情を抱いていたのですが。ですからせめて、風紀委員の男どもの中では最も貴女の近くにいる事が許されるNo.2の特権を、失いたくはないなどと未練がましいことを思って、どんな犬よりも忠実でどんな道具よりも便利であろうとしてきたのですよ。……何か、それ以外にご不明な点はおありですか?」

見下ろしながら、美人なだけでは済まずに、大層可愛らしいひとだと思った。
まったく、貴女ときたら本当に無防備な少女でお嬢様で。鋼鉄製の鈍器振り回して最強でも、やはり世間知らずだ。

「無いのならば、オレの3つめの疑問にお答え頂けませんか?」

犬やら言われて、自分で道具とか言っといて、今更告白の返事など聞きたいとは思わない。寧ろ、ここは華麗にスルーして欲しい。

「ああ。僕が大晦日の深夜に君のアパートに来た理由、だったかい?」
「ええ。オレは、どうやら犬にも道具にもなりきれない、不遜で不届きな男ですから。今までNo.2であったからといって、安心安全な男だなどと思わぬ方がよいですよ」

No.2云々については、予め過去形にして置いた。どうせ、オレの死刑執行共々、オレの地位も剥奪で決定だ。
そうして、失うものが何ひとつなくなってやっと、オレは貴女という秩序を失い、自分らしく不良という無法者に戻れる。

「なぁに?君が危険な男だとでも言っているの」
「世間一般ではそう言われていますよ。最強の貴女には、その法則は当てはまらないかも知れませんが。……恭さん」

恭さんと呼んでしまったのは、一度くらいは委員長ではなくて、この最強な絶世の美少女の名前で呼んでみたかった、それだけだ。
哲、とオレが呼ばれているので、恭と。かといって、呼び捨てには出来ずに「さん」を付けなければ落ち着かない辺り、オレは何処までも部下根性が抜けないらしい。

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