01

伝えたって無駄。
きっと、そんな言葉も気持ちも、この世界にはあるのに。

僕の胸の中にもあったのに。
秘めたままでいればよかった、そんな心。

本人は「技術屋」だってサラリと言うし、事実彼の実力は、高校生であっても一流のメカニックだと思う。

でも、彼の見かけと言えば、絵に描いたような金髪碧眼の、まるで王子様。
僕と言えば、そんな王子様にひっそりと想いを寄せてしまった灰かぶり。

そのまま、ひっそりとしていればよかったのに。

だって、童話のシンデレラは、本当は綺麗なドレスが似合う綺麗なお姫様だったけれど、僕はそうではないのだから。
ぱっとしない容姿で、ドレスどころか女子の制服さえ全然似合わない僕は、目立たないところでずっと灰を被って俯いていればよかったんだ。

彼は、僕が同じ科学技術部に所属していることにさえ、気付いてもいなかったのかも知れないのに。

「……スパナ」

誰も居ない理科室。部活動はもう終わったのに、熱心にロボットの試作品を作ってる。きっと時間も忘れて。

「…スパナ」

一旦は此処から出ていって昇降口へ向かった僕が、魔が差してもう一度戻って来たことにも気が付かずに。

「スパナ。……もうすぐ正門が閉まるよ?」
「ああ。あともうちょっとで切りが良くなるから」

3回名前を呼んで、3度目でやっと気付いて貰えた。
その程度に、僕なんか彼の眼中には入っていないのに。

……そう。魔が差したんだ。ダメで元々だから、伝えるだけ伝えてみたい、だなんて。

「スパナ」
「そんなに急かすな。ウチはベストを尽くしてる」
「……すき」

全然、噛み合ってない会話。僕にしてみれば泣きたいくらい。きっと、傍目には笑えるくらいに。

そして、金の髪に青い瞳の王子様、みたいな留学生の男の子は、初めて僕の存在に気付いたかのように顔を上げた。
流石に、ろくに会話したこともない相手から、いきなり「好き」だなんて、モテまくって告白になんかきっと慣れっこな彼でも驚いたんだろうか。僅かに見開かれた海の色の瞳が綺麗だった。

「えぇと…。あんた、名前……」

やっぱり、名前すら僕は覚えて貰えていなかったんだ。

「……いいよ。僕の名前なんて、覚えなくても」
「ウチが良くない。確か…」
「僕は、覚えて貰えなくたっていい!」

いきなり告白した癖に。
僕は一方的に遮って、俯いた。

もう、その瞬間には、後悔していた。告白なんか、するんじゃなかったって。
スパナの青い瞳を見返せないまま、僕はもそもそと、情けない小さい声で言うことしかなかった。

「……ごめん」
「おい、ごめんって、何のことだ?」

スパナは問い返したけれども、僕は彼に背を向けて逃げ出した。
全速力で廊下を走って、階段を駆け下りた。

……ばか、みたい。
こんなに、息が切れるほど走らなくたって、彼が僕を追い掛けてくる訳がないのに。

昇降口の下駄箱まで辿り付いて、そこには誰もいなかったから、僕はやっとそこで眼鏡を外した。
ぽろぽろ、勝手に溢れて止まらない涙を、ハンカチで押さえたくて。

伝えなければよかった。

伝えるんじゃ、なかった。

だって、彼は僕の名前すら知らなかったのに。
なのに「好き」なんて。伝えたって無駄なのに。

そして、名前も覚えて貰っていない僕は、彼の何を好きだったって言うんだろう?
彼が、如何にもハンサムな王子様みたいなひとだから?

僕は、彼に対してむやみにキャーキャー騒いでる女の子達は軽薄で面喰いだなんて、今にして思えば失礼な事を思っていたのだけれど、僕はあの子たちと一体何が違うって言うんだろう?

僕は、スパナのことを何も知らないのに。
彼の名前と綺麗な容姿以外に知っているのは、……彼が、とてもメカ好きで、留学生なのに科学技術部の誰よりもロボットが大好きなこと。さっきみたいに、ロボットを弄ってる時の彼は、夢中になっていて本当に楽しそうで、海の色の瞳はきらきらと輝いているっていうこと。

……たった、それだけ。




〜I fell in love, nonetheless.〜
(それでも僕は恋に落ちた。)

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