02

「正チャン!!」

バン!と乱暴に扉が開いた。

「……白蘭、サン」

桔梗は、ついさっきまでパニックにフリーズしていた正一が、眼鏡の向こう側の緑の瞳を嬉しさに見開き、日本人にしては色白の肌を、初恋のように内側からピンク色に染めるのを見た。

「成程?確かに、撫子=Pink ですねえ」
「そーだよ!?桔梗!!正チャンは、僕だけの撫子の妖精さんなのに、どーして君が楽屋で正チャンとふたりきり??……っていうか正チャン!愉快犯でドSな桔梗に、食べられちゃうんじゃないかと思ったよーーー!!!」
「わあああ!?白蘭サン、謎の白い犬みたいに飛び付かないぃぃぃ!!」

シルバーグレイのスーツで決めてきた癖に、血相を変えて楽屋に飛び込むなり、愛しの入江正一にダイブするようにハグして、そのまま椅子ごとひっくり返した白蘭を見て、桔梗は肩をすくめた。

「やっと、押し倒せるようになったんですか?珍しくヘタレになっていた貴方にしては、進歩したではありませんか、白蘭」
「…………………………………」

床の上で抱き合っちゃったまま、正一と白蘭に、ふたりまとめて落雷した。

「ちょっと…!どういう言い掛かりなのかな桔梗!!僕は、正チャンには紳士なんだけど?キスしかしたことがないジェントルマンなんだけど!?」
「まだ、キスしかしてないんですか?大学時代に13股やらかした貴方ともあろう男が、入江正一限定で、何処までヘタレなんですか?」
「ああああ桔梗ーーー!!13股とか、消しゴムをかけたい僕の若気の至りを、蒸し返さないでくれるかい!?今の僕は、ホントに正チャン一筋なんだよ!!」
「ええ、やっと真人間になれたことは私も評価しましょう。ですが私は、gdgdしていないで、さっさと押し倒せとアドバイスしたじゃありませんか?小鳥ならば啼かせるのも乙「ぎゃーーーっ!ドSな事を言わないぃぃぃ!!清純可憐な正チャンの前でーーー!!」

桔梗さん……。そのエレガントな口調で過激な感じに、僕を押し倒せとか、白蘭サンに言っちゃったのか……

と、正一はひっくり返ったままで、ぐらぐらしていた。
僕、死ぬ気で恥ずかしい……!!

一体、白蘭はどこまで正一のことを話したのだろうか。
正一には、白蘭が仕事であれプライベートであれ、何かを相談する……というのが、意外であったのだし、想像も出来ないのだ。

正一の知る限り、白蘭は即断即決の人物で、何かを思い悩む姿を見た事がない。

……そんな貴方を、僕は知らない……

「はじめの質問に、答えますよ白蘭。私が此処に居るのも、コネというものですよ」

あ…と、正一は初めて気が付いた。
「桔梗さん…。大学祭で、白蘭サンとバンドを組んだ時の、ベーシスト……?」
「ハハン、思い出して下さったとは嬉しいですね。白蘭がボーカルで、貴方のプロデューサーがドラマーで、……結局、他のメンバーも含めて、音楽関係の道に進んだのはプロデューサーの彼だけですが、良い想い出ですよ」
「…………」

あんなに、たくさんの人を熱狂させることが出来るバンドであったのに、本当にあの年の大学祭限定であったのだとは、正一も白蘭から聞いて知っていた。

ミュージシャンを志して努力しても、あんなことが出来る人間は、ほんの一握りしか居ないのに。
惜しげもなく想い出にして、今はそれぞれの道を歩む。

天が人に二物を与えないだなんて、誰が言ったのか。白蘭の周囲にはきっと、二物も三物も手にして光り輝く人間が、ごく当たり前にいくらでも居るのだ。

……どうして、僕だったんだろう?
本当に、僕でいいですか?

白蘭サン……

「だぁから。どーして、桔梗がコネ使ってまで、正チャンの楽屋に忍び込んじゃうのさ?」
「友人なりに、心配したのですよ。……アンコールの最後のアカペラは、そこの可愛い小鳥さんが、貴方の為に歌ったのでしょう?」

正一は、ハッとした。それは白蘭とふたりだけの秘密だと思っていたのに、いとも簡単に辿り着く人物がいただなんて。

Shoichi Irie が、ツアー初日のアンコールで、アルバムにもシングルにも収録されていない新曲を、無伴奏で…アカペラで歌ったということは、コンサート直後からツイッターなどで配信され、話題を呼んでいた。
その歌は、他のコンサート会場でも披露されるのかと期待を集めながらも、正一は再び歌うことはしなかったのだ。

正一と白蘭の心が通い合うきっかけになった、告白にも等しかった歌だから、これからも白蘭が聞きに来てくれるコンサートでしか歌わない……白蘭が最前列の席で聞きに来てくれる時だけに歌う。
そう、正一が心の中で決めていたからだ。

(涙はあなたのそばで 愛の言葉なんて要らない)

(あなたの笑顔 それだけでいい)

「……なんて、けなげ過ぎる感じに歌われたら、あのヘタレ何やってるんだ、くらい思うじゃありませんか?」
「うるっさいなーもう!!僕はツアー初日にあの歌を聴いて、僕からちゃんと、正チャンに愛の言葉とマシマロよりも甘〜いキッスを贈ったんだからさ!!!」
「わああぁぁ!白蘭サン、もうそれ以上バレないで下さいーーーっ!!」

桔梗は、そんなふたりに艶麗な流し目を送ると、ハハンと笑った。

「確かに、マシマロよりも詰めが甘いですね白蘭。キスで寸止めしてないで、さっさとベッドに押し倒しなさい」
「…………………………………」

白蘭が、正一もろとも落雷している間に、桔梗は長いウエーブヘアをふわりと翻して、楽屋から去って行った。

「またお目にかかりましょう。白蘭と、その可愛い子鳥さん」

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