01

朝、僕が目を覚ましてみたら。
ほかほか、あったかくて。……何か、優しい夢でも見ていたんだろうか。

そう、例えば、僕が呪われる前の……

でも、意識がはっきりしてきたら、僕の至近距離には。

サラリと長い前髪が自然によけられた、
「素顔ベルーーー!?」
「……あ?おはよベイビー」

僕は、口から魂が抜けそうになった。ベルは僕を、赤ん坊だからbabyとか呼ぶ訳じゃない。意味的には、honey(ハニー)でもsweetでも、何ら変わりがない。

いつも、金の前髪に隠れている、鋭いのに綺麗な、そして僕にだけは、<切り裂き王子>の名に似合わない優しい光を宿す瞳が、イタズラっぽく笑う。

「な、ななな何で、上半身ハダカなのさ!!」
「マーモン、ウブくて可愛いな〜。ちなみにオレ、下も何も着てないけど?」
「……………………………」

な、何も指摘しなければ良かったよ僕……!!

つまり。赤ん坊の僕はからだがちっちゃいから、僕に腕枕してくれてた、細いのに案外筋肉質のベルの腕と、胸だけ触れちゃってたけど、身長的にそれより下の感触は分からなかったという……
わ、分かんなくて別にいいけど!!むしろ、分かんない方が!!!

ベルは、しししって笑った。
「しょーがないじゃん?昨夜の任務で、思いきり隊服の上着の方、返り血浴びちまったから、速攻でゴミにしてやったし。で、マーモンに添い寝したいからマーモンの部屋に来てシャワールーム借りてさ、そのまんまGo to bed だもん」
「何で僕の部屋でGo to bedーーー!!普通に、ベルの部屋でシャワー浴びて着替えて寝ればいいでしょっ!」
「だから〜、王子もう言ったよ?マーモンと添い寝したかったら、マーモンのベッドにGoするしか無いと思わね?Principessa」

……もう、言わないでよ。
Principessa.....お姫様、だなんて。

でも、僕は黙っていた。どーせ、ハイパーマイペースなベルは、僕の言うことなんか聞いちゃくれない。
今まで何度、お姫様って呼ぶのやめてって、僕は言った……?もう、思い出せない。何度伝えて、何度無視されてきたか、なんて。

「どうしたの?マーモン、それって、悲しい顔?」
「……っ、分かるのなら、いい加減やめてよ!!僕は、お姫様って呼ばれるのはイヤなんだって、何度言わせれば気が済むの……!」

呪いは解きたい。諦めた訳じゃない。
……でも、何年もこの姿で過ごすうちに、「解いてやる!」って、言えなくなってしまった僕が居る。

赤ん坊のままのお姫様なんて、可笑しいよ。大笑いだ。

「オレが分かってるのは、マーモンはお姫様って呼ばれるのがイヤなんじゃなくて、赤ん坊の姿のまんまじゃお姫様になれないって、頑なに思ってて、だから悲しいんだって、そっちの方だけど?」
「…………っ!」

どうして。いつも。
簡単に、僕の心を、暴いてしまうの……?

「オレがさあ、自分の部屋じゃなくて、マーモンの部屋に来た理由、知りたい?」
「知りたくないし、興味も無いよ!」
「じゃー言うけどー」
「ベルって、とことん、人の話を聞かないタイプだよね!?今更だけど!!」

聞いてるけど?ってベルが、笑う。
……何で、いつも隠してるのさ。綺麗なベルの瞳と、素顔。僕は、好きなのに。
なんて、言ってあげない。いつか僕を置き去りにして、大人になって、ベルは僕をからかって遊ぶのにも飽きて、本当にお姫様みたいに綺麗な女の人を選ぶ日が来るから。

「聞いてるけど、オレが言いたいから言うんだよ。……マーモンって、いっつもマントのフードをふっかく被ってて、なかなか可愛い顔、見せてくれないじゃん?でも、流石に寝る時にはマント着てないから素顔じゃん?」

オレはさあ、素顔のマーモンの寝顔と、朝一番で起きてるマーモンの素顔を見たかったんだよ。

……前言撤回。やっぱり切り裂き王子。殺しの天才。
僕の心臓なんて、君が言葉のナイフ1本投げただけで貫かれる。いつだって。

同じ人生を繰り返しながら。何度も、何度も……
僕は心臓を貫かれる度に、変に甘くて不確かな望みを繋ぎたくなって、悲しくって、泣きたくなるのに。

ベル、君ほど優しくて、残酷なひとを、僕は知らない。

「マーモンって、なかなかオレに笑顔見せてくれないよな。……でも、泣きたいんだったら、泣いてる素顔でも、オレは好きだよ。マーモンはさあ、呪われてても呪いが解けても、どっちでも、ずっとオレのお姫様なんだからさ」

赤ん坊のくせに。男のハダカの胸に抱き締められて、心臓が跳ねるだなんて、何て滑稽なの。

「ベルに、僕の気持ちなんか、解るもんか!」
「解ってあげたいよ。でも、解んなくたって、愛せるじゃん?」

さらりと、簡単に。

「なあ、イタリア語と英語と日本語と、どれがいい?まあ、王子天才だから、中国語でも別にいいんだけどさ」
「な……、何の話?」
「マーモン、Ti amo. I love you. 愛してる。wo ai ni.」

サラッと、4ヵ国語で口説いてきたーーー!!!

「……どれも、信じない」
「お姫様、嘘吐きだよな〜。そういう意地っ張りなとこも、王子は愛してるけどさあ。……マーモンは、とっくにオレのことを信じてるのに、信じたくないって、怖がってるだけだよ?」

……何にも、怖くないよ?オレのお姫様。
オレがずっと、マーモンの傍にいるから。

マーモンが意地張って、信じてるとも愛してるとも言ってくれなくたって、オレは知っててあげるから。

「だってお姫様、オレの事愛してるじゃん?」

どうして……
どうして、僕は何も隠すことを赦されないの……?

なのに、僕は。心の奥底で、嬉しいなんて思っているんだ。

ベルは、何事もなく、まだ眠いとか言ってあくびをして。
僕を抱き寄せると、殺し屋じゃないみたいに優しくて、でも16歳らしいあどけない寝顔で、すぅすぅと、安らかな寝息を立て始めた。

……教えて、あげない。

僕も、ベルの素顔が好きだなんて。
僕は……呪いが解けても居ないくせに、幸せだなんて。










〜Fin.〜
 

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