01

草壁が、雲雀に呼び出されてその私室を尋ねると、雲雀は粋な紬を適度にかぶいて着流した姿で、脇息に寄り掛かっていた。

その優美な白い手が、何かをぱらりとめくってる。
少年にあるまじき色香に、草壁の内心はぐらんとしたが、だてに産まれた瞬間から生後半年の雲雀恭弥の部下をやっていない。
努めて冷静に、

「哲、参りました」
「見合いすることになった」

草壁は、ずがーんと落雷したが、これもだてに、草壁家は代々雲雀家に仕えていない。
上流階級には、若いうちから縁談が舞い込むなど珍しくないことくらい、既に承知している。

「そうですか。おめでとうございます」
「どの辺めでたいんだい?50字以内で簡潔に応えろ」
「山ほどあった縁談を全部蹴ってきた恭さんが初めてお見合いするならばご結婚は本決まりと思うのが自然です。」

流石は雲雀恭弥の一の側近にして風紀副委員長の草壁哲矢。句点も含めて50字ジャスト。

雲雀は、完璧すぎる部下って何かムカツク…!と思いながら、ムッスーと不機嫌な黒猫のように草壁を横目で睨んだ。

「君は、僕の部下にして、同時に恋人だと認識していたのは、僕ひとりだというのなら、僕は0.01秒で君を三途の川の向こう側までトンファーでぶっ飛ばしてあげよう。一切の苦しみを感じさせないのが、僕の愛だ」

……ソレ何て物騒な愛?
と、草壁は遠い目になったが、確かに、何年も難病をを患った末に、無理矢理に延命治療で長らえさせられながら苦しみ抜いて死ぬ、とかいう死に方よりも、かなりラクで幸せな死に方なのには違いない。

「Loverを、日本人は恋人だと思って、ラブソングなどに多用していますが、英語ではほぼ愛人です。愛人にしたところで、愛の人と書く故に、中国では配偶者または恋人を差します。なので、オレは曖昧〜な感じに、恭さんのLoverでいいです。男なので結婚も出来ませんし、子供も産めませんし」
「いつも君が僕に突っ込んでるくせに、どうやって君に僕の子供が出来るんだい?僕が、君の子供を奇跡的に孕むのならともかく」

……ソレ、何て奇跡?(遠い目)

草壁は、いつまでも目を泳がせていないで、本筋に話を戻した。

「その御様子ですと、珍しく恭さんは不本意にも、お見合いをなさるのですか?」
「お母さんに泣きつかれてね。どうやら、父が持っている会社の、最重要の取引先の、社長令嬢なのさ。だから、写真と釣書だけ見てNo.と応えるのは、相手の面子を潰すことになる……から、最終的に断ってもいいから、顔だけでも出して欲しいって言うんだよ」

雲雀は、父とは不仲と言うよりも無関心だが、母には弱い。
雲雀の母は格下の家から嫁いできた上に、なかなか子供を産めなかったので立場が弱く、ひとり息子である雲雀が幼い頃から守ってきたという経緯があるからだ。

「そういう訳で、次の日曜が大安吉日だから、うちの系列のAホテルの最上階にあるレストランで見合いに行ってくる」

……ということはさっき雲雀がめくっていたのは、見合い写真と釣書なのか…と、草壁はやっと気付いた。

「何?君でも興味があるのかい?」
「え…、あ、はい。オレは見たこともない、将来も縁が無いと思われるものなので」

正直、興味があるというよりも、胸がざわつくのだ。
……不安、というのだろうか。この気持ちは。

気紛れな雲雀のことだ。実際に会ってみて案外気が合ったとか、上流階級の令嬢らしく可憐で典雅な姿を雲雀が気に入るとか、そういう事が絶対に無い……などと、誰が言えるのだろう?

「見たけりゃ見ていいよ。僕も、顔を見たのはこの写真が初めてだ。…まあ、僕なりに、政財界の情報網は持っているから、彼女のこともある程度把握済だけどね」

雲雀が案外簡単にそう言ったので、草壁はそっと写真を開いてみた。
そして、正直、3秒はじっくり凝視して、はぁと溜め息交じりに言った。

「これは…また。女優でもなかなか居ないレベルの美人ですね」
雲雀よりは年上のようだが、むしろ雲雀が見合いをするには若すぎるのだ。
十分に瑞々しく若く、豪華に咲き誇る花ような、しかし上品さと気品を兼ね合わせた令嬢の、振袖姿で椅子に座した姿と、胸から上だけの顔写真が見開きになっていた。

「つまり…!君は、こういう女性が、たっぷり3秒見つめる程度に好みだと……!!」<ズゴゴゴゴゴ>

なんか、地響きが聞こえる。気の所為じゃないと思う。
いつもは上品典雅な紫の炎を宿すはずの雲雀から、何だか黒いオーラが可視化できる。

「い、いいいいいえ!!振袖を着た恭さんの方が、このご令嬢よりも1億倍美人です!!!」
「…………………………」

……言っちゃったァァァ!!!と、草壁は、リーゼント頭を上質の砂壁にゴンゴンしたい心境に駆られた。

オレってば、何を本当すぎること言っちゃってんのォォォ!!(←もはや誤作動のあまり論点がずれている)

「つまり君は、ただ僕に突っ込むんじゃなくて、女装プレイをしたいと。どういう風紀の乱れだい?副委員長」
「そっ…!そんな不埒な事はっ…ごふぅ!!」←想像した

雲雀は、静かに袖の内側から、ケータイを取り出した。

「ああ、僕だ。救急車を1台。…場所?夜なんだから、学校な訳がないだろうJK。僕の屋敷の僕の部屋だ。約1名血を吐いてるから、死なないようにどーにかしてよ。どーにか出来ないようなら咬み殺すから」

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