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「悪い夢だと……言ってはくれないんですね」

僕は、その正チャンの言葉と、泣き出しそうに揺れる緑の瞳と震えた声に、何だかきょとんとした。
……どうして、喜んでくれないの?正チャン。

「5年前に、僕は崩壊した世界と、何処に携帯端末を繋ごうとしても流れ続ける…貴方と同じ名と同じ姿の、独裁者の演説を聴いたんです」
「独裁者だなんて、そんな陳腐なモノに、僕は興味は無いなあ。言ったじゃない?僕は、この世界をぶっ壊して、全ての並行世界の扉を開いて、素晴らしい新しい世界を創造する神様になるんだって。正チャンが見たのは、単に創造の前の破壊という、途中経過に過ぎないよ」
「いけない……!いけないんだ、白蘭サン。そんな事をしちゃ、いけないんだ!!」

僕は、驚いた。
だって僕たちは、本当に仲が良くて、気も合って、喧嘩どころかディベートすらしたことがなかったんだから。

「いつも笑顔で、僕を支え続けてくれた白蘭サンが、本当はずっと辛い思いをしていて、孤独で……この世界を憎んでいる、そのことは、僕にもわかりました。……ううん、僕じゃ、何もわかってあげられていないのかも知れない。だって僕じゃ、ちっとも白蘭サンの孤独を癒してなんかあげられなかった……!」

正チャン……、何を言っているの?
僕は、君と出会えて、愛し合えて、本当に幸せなんだよ。
ただ、ふたりで閉じ篭もるんじゃなくって、本当に僕がのびのび出来る、鮮やかなリアルと奇跡に満ちた世界で生きたいだけなんだ。勿論正チャン、君も連れていって、もっともっと、幸せな笑顔にしてあげたいんだよ。

「僕や白蘭サンが、嫌いだと思う人間でも、他の誰かにとっては、大切な愛する人なのかもしれない……それと、同じです。白蘭サンにとってはくだらなくて、馴染めなかったこの世界でも、他の誰かにとっては、懸命に生きている現実で、守りたい人も愛している人も居る、かけがえのない世界なんです。……だから、自分が好きになれないからって、傷付けたり、壊したりしちゃいけないんだ!!」
「………………」

何…?今の。
僕は、僕にも正チャンにも、とっても素敵な事をしようとしているのに。

「……正チャン、僕を叱っているの?」
「違います。解って欲しい、傷付けないで欲しい、それだけです。……僕は、人間の白蘭サンを好きなんです。破壊と創造の神様になんか、なって欲しくないんだ……!」

僕に縋り付く正チャンは、もういっぱい泣いていて。しゃくり上げて、呼吸さえも苦しげで。
僕は何だか、釈然としない思いで、それでも優しく正チャンの背中を擦ってあげた。

「全てを…、話すと約束したので、僕の事情を明かします。……僕が白蘭サンと初めて出会ったことも含めて、全てのタイムトラベルの記憶を失っていたのは、<未来の僕>の意志です」
「……正チャンが、正チャンの記憶を消したのかい?どうして……」

世界が違っても、僕と正チャンはすぐ近くに居て、2度出会い頭にぶつかって出会った。
それで、僕は2度目の出会いで、<イリエショウイチ>の名を思い出した。
別の世界で、既にいちど出会っているのだと。

運命とは、偶然の連続をそう呼ぶ。
僕と正チャンが、違う世界なのに全く同じ出会い方を2度果たしたという、その偶然の連続が、運命が、僕の偉大な能力を目覚めさせてくれたのに。
どうして、未来の正チャンは、こんなにも素晴らしい運命の糸を、5年にも渡って断ち切ってしまったの……?

「理由を…知りたいですよね。言います。……未来の僕は、白蘭サンの野望を止める為に、白蘭サンに何も怪しまれずに、僕をスパイとして送り込む為に、5年もの間、僕のタイムスリップの記憶を封印したんです」

僕を…止める?
僕の、野望を……
最も僕の傍に居て、僕を愛していると言って、僕を欺き最後には裏切り、……<独裁者>の僕を、始末する為に……!

僕は、今まで自分が信じていた幸福が、崩れ去って行く音を、聞いたような気がした。

「……ふ、アハハハ、…アハハハハ!頭脳明晰な正チャンらしくもない失態だね。種明かしをしてしまったのなら、君はもう、僕のスパイにはなれないよ?」
「覚悟の上です。僕は、スパイなんてしたくない…!僕はまだ、あの独裁者の白蘭サンと、今僕の傍に居る白蘭サンが、同一人物だなんて信じられない。…信じたく、ないんです。だって、僕が知っている白蘭サンは、……内気で、退屈で、つまらない僕でもいいって…一緒に居ると楽しいって言ってくれた、優しい人だから。僕を独りにせずに、いつも傍に居てくれて、愛している……って言ってくれたひとだから……!」

独裁者と、君は言う。
生まれながらに背に翼を持ち、この世界の神が嫌う人智を超えた力を持った僕は、ずっと孤独に、この世界から爪弾きにされて生きてきたのに。

「この世界の奴は、みんな僕の容姿や表面上の笑顔に気を取られるばかりで、決して僕の心に触れてなどくれなかったよ。この世界に、僕の居場所なんか、ずっと無かった…!これからもそうなのに……!!正チャン、どうして君が、……僕が愛して待ち続けた君が、僕の望みを潰そうとするんだい!?」
「僕では……ダメですか」

潤む緑の瞳から、涙がこぼれ落ちる。

「僕は、白蘭サンを……裏切りたく、ない。だから<今の僕>は、未来の僕が仕組んだ計画を裏切って、その秘密を全部、白蘭サンに明かすことを選んだんです。僕が…今のままの白蘭サンを、愛しています。失いたく、ないんです。……僕が、傍にいても、白蘭サンは孤独なままですか…?僕では、白蘭サンの居場所には、なれませんか……?」

僕は、意表を突かれた。
……だって。

「ちっぽけで、無力な正チャン?……つまり君は、僕に君ひとりを選ばせて、他の可能性は全部捨て去れと、そう言うのかい……?僕は、並行世界の数と同じだけ、それこそ無数の可能性と、人智を超えた偉大な力があるのに…!このくだらない世界ひとつ維持する為に、君は僕の力を試すこともするなと、僕が僕らしく生きることは悪だと、そう言うのかい!?」
「違…、か…ハ……ッ」

あまりにも愛しいと、失望させられた時に、殺したいほど憎いと思うものなのだろうか。
僕は、正チャンを組み敷いて、そのか細い首を、両手で締めつけていた。

「ほかの並行世界では、正チャンは僕が作った軍隊に限りなく近いマフィアで、僕の副官を務めてくれているのにさ?……ほら、<チョイス>を一緒に作ったじゃない?あれで僕は確信したんだよ。正チャン、君は、やっぱり僕のゲームに必要不可欠な、ラッキーアイテムだったんだ…ってさ?」

気付かなかったのかい?あれは、戦争のシミュレーションゲーム。
僕も舌を巻くほどに、平和の国に生まれたはずの正チャンには、軍事指揮官としての突出した才能が有った。

成程、他の並行世界の僕が、正チャンを副官にしてゲームを進行させている訳だ……って、そのコンビネーションに、僕は感動すら覚えたのに。

ひょっとして、ほかの世界の君も、僕の親友だったり、恋人だったりしながら、副官という一の側近でありながら、本当はスパイとして<ほかのふたりの大空>のどっちか辺りと繋がって、僕を殺すチャンスを伺っているのかい……?

「これは、ほかの世界の僕にも教えてあげなきゃいけないなあ?僕が最も愛して、最も信頼している副官の正チャンは、……実は、僕を裏切るスパイをしているんだ、…ってさ!!」

僕は、自分でもヒステリックだと思いながら、アハハハ、アハハハ、って笑い続けた。
手が緩んで、漸く酸素を得ることが出来た正チャンが、咳き込んで、ひゅぅひゅぅと喘息みたいな音で苦しげに息をする。



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