01

僕は、友情と恋に優劣も上下も無いと思っているけれども。
かつての僕と君は、所謂「友達以上恋人未満」という関係だったのだろうか。

「ウチ、正一のこと好きだ」

初めて言われたのは、高校生国際ロボット大会で。
僕も君も15歳。でも、東洋人の上に成長期が遅かった僕の身長は、157cm。美しい金髪碧眼の、典型的な白人女性……同年齢なのだから、僕が少年なら君は少女だったのだろうけれども……の中でも長身の君は、推定170cm。

君はとても大人びて見えて、僕には気後れがして、眩しかった。

まさか、恋愛的な「好き」だなんて、僕は思えなくて。
親日家の君は、僕と会話をする時には日本語を好んだから。その「好き」は、メカニックとして意気投合した、良きライバルで良き友人としての親愛表現なのだとしか。

そのくせ、僕はチームメイトに冷やかされるほど真っ赤になって。俯きながらもそもそと、
「……ありがとう」
と返すのが、精一杯だった。

大会自体は数日かけて行われるけれども、実感としてはやはり、僕は君と出会えるチャンスは、1年に1度しかないんだって、必死になって努力をした。

だって、チャンスはあくまでもチャンスでしかない。
科学者のたまご達が集う、ハイレベルな大会は、各国の予選を無敗で勝ち抜いたチームだけにしか、門戸は開かれないのだから。

10p以上の身長差も。日本とイタリアという距離も。
同じくらい、僕には遠く思えて。

僕は、君の口から好きという言葉を聞く前に、本当は君に仄かな恋をしていたのに、僕からは一度も、君にそう告げたことはなかった。

僕と出会う前から、ハイテクの国・日本に憧れていた君。
僕が日本人でなかったのなら、君はきっと、チビで眼鏡で冴えない僕に、声をかけてなんかくれなかっただろう。
例え友人としてでも、僕に好きだなんて、綺麗な海の色の瞳で微笑んでくれることもなかったのだろう。

メールアドレスを教えて欲しいと言われたのも、僕は社交辞令なのだと思って、本当に君からメールが届くだなんて信じていた訳じゃない。
でも、帰国したら僕のPCに君からのメールが届いていて、驚いた。

それも、毎日、必ず…だなんて。

僕は長い文章を書く……というよりも、口下手で、メールも短くなりがちだったのだけれども、好奇心旺盛な君は、大好きなロボットのことから日本の文化は歴史的なことから日常的なこと、そしてサブカル・ヲタク文化まで、話題の尽きることのないひとだった。

毎日行き交うメールの内容に付いていく為に、僕は勉強と音楽に偏っていた自分の知識を必死に広げては、メールという不確かな繋がりを失いたくないと願っていた。……本当は僕なんか、つまらない退屈な奴なんだって、君に知られてしまうのが怖くて、滑稽なほどに懸命だった。

僕は日本人。君はイギリス生まれのイタリア人。行き交うメールは、無難に英語で。

しばしば君は、メールでも僕を好きなのだと言った。

『I like you so much, Shoichi.』

勉強不足の僕は、ああ、やっぱり、Love じゃなくて、Like だったんだ……なんて、愚かなことを思った。
英語圏の人間は、個人差はあるけれども、男女関係の場合は、かなり付き合いが深くならないと、「I love you.」とは言わないのだと、僕は知らなくて。

「I like you.」は、とても範囲が広い言葉で、その場その場の雰囲気で、日本語の告白に相当する言葉にもなるんだ……って知ったのは、僕が君と別れて、遠くアメリカの大学に渡ってからだった。

(I like you so much, Shoichi.)

それは、君からの、精一杯の「大好き」という心を告げていてくれたのに。

でも、高校時代、I like you.というメールに、やっぱりあくまでも友人で、ライバルで……だから、失恋したんだってショックを受けた僕は、返信メールでは、何事もなかったように君が提供してくれた別の話題についてだけ、返事をした。

I like you.さえ、僕は君に、伝えてあげた事はなかった。
僕は嘘を吐くのが下手で。そのくせ、My feeling is different from yours.(僕の気持ちは、君の気持ちとは違うんだ)とも、当然に I love you. (君を愛してる)だなんて、言える訳もなくて。

一度だけ、"I miss you, Shoichi."(正一に会えなくて寂しい)という文面を貰った時には、胸が跳ねて、ドキンとしたけれども。
僕は、もう血の繋がった身寄りは居ないのだと話していた君が、心細くて人恋しくなるようなことがあったのだろうと、どう気遣って良いのか分からなくて、当たり障りのない返事をした。

"Keep your chin up,Spanner."(スパナ、元気を出して)
"Though we are far , I am your friend without changing."(僕たちは遠く離れているけれども、僕は変わらずに君の友達だよ)
"I believe I can meet you in the international robot tournament again by all means."(必ずまた、僕は国際ロボット大会で君と会えるって信じているから)

親切なふりをして。
僕はきっと、君を傷付けたのに。

次のメールで、君は僕のことを、優しいと言った。

『やっぱり、正一は優しい。だからウチは、これからも変わらずに、正一のことが大好きなんだ』

君を好きだったくせに、君を信じなかった僕。
僕は君の友人だと、心にもない嘘を吐いて、僕に逢えなくて寂しいのだと、縋るように正直な気持ちを伝えてくれた君の心を、踏みにじったのに。

I really like you without changing.(変わらずに好き……正一)

本当に優しいのは君。本当に、悲しかったのは君。
なのに君は、別れの瞬間まで、僕を好きだと言い続けてくれた。

こんな、不甲斐ない僕のことを。

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