01

確証など何も無かった。
と言うよりも、きっとこれで本当に終わってしまうのだと思っていた。

「もう惚れていません」「大嫌いです」という大嘘を、死ぬ気で叫んだって、頭脳明晰で滑らかな毒舌仕様の雲雀から、0.1秒で

「そう、最後だけは気が合うね。ただし、共通点は惚れていないという事だけだ。僕は君を大嫌いと思うほどの熱意も関心も、1mgだって持ち合わせていないからね」

などと冷ややかに返されてEnd.なのだろうと。
それでも、スパナ曰く
「どーせ出て行くのなら、捨て台詞的に一生分の愛を叫べ。超叫べ」
という訳で、草壁も確かにその通りだと思ったのだ。
もう二度と逢うことも許されないのなら、その叶わない想いの全てを、一方的にぶつけてでも伝えきりたい。

(……恭さんの本心は、よく分かりました)
(貴方にとってオレが必要でないのなら、オレは貴方の為に出て行く決心が付きます)

(オレが恭さんに惚れていないなんて、大嫌いだなんて、大嘘です。エイプリルフール的に)
(全部、反対の意味です)

(貴方に必要とされなくても、オレは一生同じ空の下で、貴方を愛しています)
(……さようなら。世界で一番大好きです、恭さん)

……とか!切なく決めてから去って行こうと、本気で思っていたのだ。

しかし今、草壁の腕の中には、まだ小さくしゃくり上げている雲雀がいるのだった。
草壁は、そんな素直でいじらしい雲雀の姿に感動しまくったが、しかし本気で狼狽えてもいた。
だって、「出て行け死ね」(氏ね、じゃない)とまで言い放って、魔王よりも手に負えない感じに怒気を漲らせていた雲雀であるのに。

まさか、草壁がエイプリルフール的に叫んだ「大嫌い」に、ぽろぽろと綺麗な大粒の涙を流して、泣いてしまうだなんて。
……傷付けてしまった、だなんて。

「あの…、恭さん。オレが悪かったです。エイプリルフールは、罪の無いささやかな嘘を楽しむ日なのに、言っていい嘘とそうでない嘘をわきまえずに、罪がありまくりの盛大な大嘘を吐きまくったオレが、全面的に悪いです。……だから、もう、泣かないで下さい」

ほ…本当は、好きなんです。恭さん。
と、草壁はたどたどしく、本当の言葉を伝えた。

まあ、かなりこじれてしまったので、あの時点では正直に
「過去についてはお詫びするしかございません。でも、今のオレが愛しているのは恭さんだけです!当然に抱きたいのも!!」
と、本当過ぎる事を声を大にして叫んでも、雲雀は絶対に信用してくれるどころか、耳を傾けてもくれない、という状況ではあったのだが。

それにしても、こんなにも自分如きの為に雲雀を泣かせるつもりなど、草壁にはこれっぽっちもなかったのだ。

「……こどもの頃から、君はずっと僕の傍にいてくれたけど。でも……、だからこそ、よくよく考えれば、君が僕を好きで居続けてくれる理由が、見当たらない……」

雲雀が、小さな涙声で、草壁の胸に顔を埋めながら、途切れ途切れに言った。

……だって、哲の言ったことは本当だから。

僕は確かに、我が侭で気紛れで、理不尽の塊だ。
ちなみに、直すつもりもないけど、三つ子の魂とやらで、今更君の為に直そうと思っても、直らないと思う……

確かに、僕は気分でトンファーを振り回しては、その辺の草食動物をぶっ飛ばす。
ぶっ飛ばさないとムカツキが溜まって仕方が無いから、きっとこれも直せないと思う。

……哲以外の使用人が、僕を怖がっている事なんて、とっくの昔に気付いてた。
仕方が無い。誰だって命が惜しいんだろう。

哲だって、本当は僕が怖いんだし、でも幼馴染み的に長年傍にいて、僕に対する部下根性が染みついてしまっているから、絶対に逆らえない……
それだけなんじゃないかって、思う。……今までだって、何度もそう思った。

こんな僕よりも、君には優しくて良い気立ての女が、恋人としても将来の伴侶としても似合いだ。
……誰も近寄りたがらない僕に仕えたまま、僕とのセックスに縛られたまま、所帯も持たずに子供も設けない……のは、思えば酷く、君には似合わない。

不良の癖に、本当は優しい君だから。
本当はもう、ヤンチャやめて、親とも和解して、将来は孫の顔でも見せてやるのが、君らしいんだ。

……僕を選ぶことは、君らしくないんだ。

全部、君は正しいことを言ったんだ……哲。
僕を好きじゃなくなったのも、僕を大嫌いになったのも、僕から離れていこうとしたのも……

「全部…、君は正しいのに……!哲…唯一、君が正しくないのは、無様に泣いた僕に同情して、いつまでも僕の傍に留まっていることなんだ!」

雲雀は、倫理的・道徳的な意味で、自分が正しい人間だと思った事など一度もない。
最強だと自負してきた。
勝てば官軍、が雲雀の持論だ。

世の中の歴史は、常に勝利した強者の視点で後世に残される。
そして、結果的に強い者が正しい、ことになるのだ。

知っていた。
雲雀の正義も秩序も、そのようなものなのだと。

だから、強くて正しい雲雀のカリスマに熱狂する人間は掃いて捨てるほどいても、雲雀の実態を知る身近な人間ほど、雲雀という理不尽な暴君を怖れるのだ。雲雀の屋敷に仕える使用人たちがそうであるように。
ビクビクしながら命令には従うが、それ以外では遠ざかろうとする。

最も身近に居る草壁が、たとえひとときでも、雲雀を選び愛してくれた、それはきっと一生に一度の、奇跡のような出来事であったのに。

……神様は、本当に居るのかも知れないと、雲雀はふと、草壁の温もりを感じながら、目を閉じた。
自分には孤独が似合うのだし、草壁には似合わない。

雲雀は、孤独が似合っていることは自覚していたけれども、決して孤独が好きだった訳ではないから。
短い間でも、草壁が自分を好きになってくれて、身も心も愛してくれたのなら、その日々に終わりが来ても、一生の想い出になる。

……いいんだ。僕は、この想い出だけで。
あとは一生、僕に相応しい孤独の中で、君臨する運命を生きていけばいい……

ただ崇拝され、心酔され、しかし決して、ひとりの人間としては愛されないままに。

[ 1/99 ]

[*prev] [next#]
[図書室27]
[しおりを挟む]


×
「#切ない」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -