09

中庭で待ってるよ♪今日ってホントステキな誕生日だな〜僕。
……というメールが白蘭から届いて、正一は急ぎ向かっていた。マシマロでイチゴなバースデーケーキよりもgr8な事でも有ったのだろうか?

「待ってたよ〜!正チャ〜ン!!」
「こ、こっちから向かっているのに、何で突進してくるんですかぁぁぁ!!」

白蘭が、躾の悪い白い犬みたいに銀髪をなびかせつつ満面の笑顔で疾走してきて、焦ってフリーズした正一に飛び付くと、どーんと押し倒した。
……割には、背中も頭も痛くない。と正一は気が付いた。メチャクチャやっているようでいて、白蘭は正一のからだを庇ってくれたのだ。

そう、気付いてしまうと、朝のmouth to mouth のキスを想い出して、かーっと顔の温度が上がってしまう。
しっかり白蘭の胸に抱き締められながら感じる、セクシーで甘い大人の男の香水の匂いに、正一の心臓が鼓動を増してゆく。

「な…、ななな何なんですか!ま、また何かいいことがあったんじゃないんですかっ!?」
「あ、そうそう。絶対3人で見たかったんだよね〜コレ♪」

白蘭が、ナチュラルに正一を抱き支えて起こしてくれて、余計に頬が火照る。
そんな正一の心中を知ってか知らずか、白蘭は「じゃ〜ん♪」とにっこにこで鞄から1冊の雑誌を取り出した。

「あぁ、そっか…今日、発売日だったのか」と、スパナ。
「そうだよ〜?僕さぁ、コレが楽しみで、朝にスパナから拳銃サプライズされるまで、自分の誕生日忘れてたくらいなんだからねー」

それは、工学系の専門誌。白蘭は、嬉々としてあるページを開いた。
「……まあ、採用されたとは知ってたけど、ホントに載るものだったんだな」
と、スパナがぽややんと言う程度に、正一も何だか夢みたいだと思った。

そこには、正一・白蘭・スパナ3人の連名で投稿した論文が掲載されていた。
「本当に……僕たちの論文だ…。全員の名前、ちゃんと載ってる……」

入学して半年。この大学でも前例のない快挙だ。
実験室を借りて、自主的に3人で共同研究したものを、業界では有名な雑誌に投稿して、採用されたのだ。

「やっぱり、正チャンとスパナのダブル天才が居てこそだよね〜。嬉しいなあ僕」
「白蘭が、トンデモだけどgr8でユニークなこと思い付いたからだろ」

白蘭の思い付きを正一が理論的に詰め、スパナが具体的に実用として開発して、特許も申請、という流れ。
個性の違う3人だからこそ可能だった、初めての論文掲載だ。

「これから、こーゆーのって何度も有るんだろうけど、3人一緒に初戦突破って、やっぱり特別な記念だと思わない?だから、僕から逆プレゼントだよ♪」
白蘭は、ちゃんと正一とスパナの分まで雑誌を買っていてくれていて、それぞれ手渡してくれた。

……その後、3人は5年の間に、共同でチームを組んでどんどん新しい研究を始め、そして並行して進めては、専門の機械工学に留まらず、広範囲に渡って論文を書き、名だたる教授陣とも並び称されるほど、この大学の顔として、内外に知られる地位に上り詰めることになる。

正一はまだ、知らなかった……この頃は。5年で、終わりが来るだなんて。

「……ずっと、こうやって、3人で研究していきたいですね」
「って、正チャン。嬉しいのは分かるけどさ、現実問題として、ずーっと僕とスパナに挟まれてばっかり居たら、婚期を逃しちゃうよ?30過ぎて婚活とか日本で流行ってるけどさあ、女性は年齢を重ねると、中身も見かけも魅力的でも、子供が出来にくくなっちゃうよー?」

結婚とか。子供とか。正一は、真っ赤になった。

「僕まだ18です!みかけ中学生らしいですけど!!どーせ、僕は30代になっても高校生か?とか言われる程度に幼稚で女らしくないままなんでしょうから、結婚なんて一生、誰ともしませんっ!!」

さっきまで、あんなに嬉しそうだったのに。
正一は、ぷりぷりと怒って背を向けて行ってしまって。
白蘭とスパナは、顔を見合わせた。

「……正チャン、何で怒ってるのかなあ?」
「白蘭らしくないコメントだな。年頃のLady に、結婚とか子供とか、セクハラの定番なんじゃないのか?」
「セクハラじゃないよ〜?愛なんだよ〜?正チャンってば、有能すぎて、研究に没頭しすぎて、気が付いたらアラフォーになってそうなタイプじゃない?」
「……まあ、いかにも有りそうなパターンだとは、ウチも同意するけど」
「だから僕としては、正チャンがお姫様な年齢のうちに、お姫様なウエディングドレスを着せてあげて、世界で一番可愛いママンにしてあげたいんだよー?」

スパナは微苦笑して、白蘭の背中を、正一が行ってしまった方にぽんと軽く押した。
「じゃー、そう言ってやれ。……思ってるだけじゃ、伝わらない、白蘭」

……君もだろう?スパナ。
ただ、5年という秘密のタイムリミットを共有している以上、白蘭はそう口には出さずに「ん♪ありがと」とだけ言って、ひらりと手を振ってスパナと別れた。

「正チャ〜ン!セクハラじゃないよー愛なんだよ〜♪」
講義棟に入ろうとしていた正一は、相変わらずのその声とその科白に振り返り、……何でこのひとは工科大学にいるんだ。陸上選手になればいいのに的に疾走してくる白蘭の姿を視界に捉えてフリーズした。

「せ…セクハラって何のことですか!?そして、飛び付かないーーー!!」
「うん、そうするよ♪」

ふわりと、白蘭の手が柔らかく正一の手を握って、普通に隣を歩き始めたので、正一は何だか、肩すかしを食らった気分になった。
……でも、これはこれで、心臓が落ち着かない。正一の小さな手よりも、ふたまわりほども大きい、優美なのにガッシリと骨張った、男の手。冷え性気味の正一の手は、心地良いと思う体温に、すっぽり包まれて。

「次、講義おんなじでしょ?一緒に行こうよ正チャン」
「ど……どどどどどうして、普通に並んで歩かないんですか?」
「ど、はひとつでいいと思うよ正チャン?親友なら、手を繋ぐのはOKだと思わない?僕的には、肩を抱いちゃいたいんだけど、正チャン絶対に厭がって逃げちゃうしさあ」
「……日本人的には、男女の友達は手を繋がないんですけど!アメリカではどうなんですか?」

どうかなあ?と謎かけするように、白蘭の綺麗な紫水晶の瞳が細められた。
「フツーに友達でも、写真撮る時に肩に手を回しちゃうし、仲良しならほっぺ合わせてキスしちゃうけどね〜」
「ご、郷に入れば郷に従えなんでしょうけど!て、手くらいなら…あの、どうにか心臓が止まらずに済みそうですけど、それ以上は無理です!!」
「mouth to mouth なキスもしちゃった仲なのに、ガードが堅いな〜正チャン。僕はスパナでもちゅーってしたい時にはしちゃうんだよ?アイシテル親友だから〜」
「いくら白蘭サンだからって、かっ飛びすぎです!フツーにそうじゃない感じに周囲から勘違いされます!!」

……なまじ美形同士で絵になるだけに。と正一は遠い目になった。

「スパナは、他人からどう思われてもぽややんとヘーキそうだけどさ。僕はむしろ、正チャンに関して言えば、周囲に勘違いでも誤解でも、されちゃいたいんだよ?」
……握られた手が、熱い。頬も。

「さっき、スパナから叱られちゃったよ。結婚とか子供とか、女性にそういう事を男が言うのは、セクハラだろって。……でも、僕はそんなつもりじゃなかったんだよ?」
「……知っています。もう、怒ってませんから」

白蘭は、正一にじゃれつくのが好きなのだし、むしろ異性として意識してくれているから、まだ若い、自分ではまだまだ子供だと思う正一に、結婚や出産の話などナチュラルにしてしまったのだ。

正一が、自分でも過剰反応だ……と思ったのは、白蘭が言った<ずーっと僕とスパナに挟まれてばっかり居たら>の部分だ。
……白蘭には、気付かれているのではないかと、とっさにそう思ったから、後ろめたくて逆ギレなどしてしまったのだ。

揺れる、心。
3人で居たいのは、本当はどちらとも良き友人でありたいと言うよりも、どちらとも決められない、正一自身の狡さなのではないか。
……仄かな恋心に、まだ決着を付けられない、付けたくない、そう逃げているだけではないのか……

「ねえ正チャン、僕は、正チャンを傷付けるようなこと、言ったのかなあ。もしそうなら教えて欲しいよ。僕はノーテンキで、多分知らないうちに人を傷付けて回ってるんだろうけど、正チャンをしょんぼりさせたくなんかないし、嫌われでもしたら、僕だって辛いんだよ」
「…え?あの、そんなんじゃないんです。本当に……」

正一は、僕は本当に歯切れが悪い……と思いながら、罪悪感に、ちくりと胸が痛んだ。

「そーゆー訳で、セクハラじゃなくて愛なんだよ。……ね、正チャン。親友だけど、僕は正チャンにプロポーズしてもいいのかなあ?」
「…………」

一瞬、何を言われたのか分からず、正一の優秀な頭脳がその意味を反芻するのに、10秒もかかってしまった。

「あっ、あの!からかわないで下さいよ、白蘭サン。僕、まだティーンエイジですから!見るからに!!」
「そんな事言ったって、僕は恋愛感情のある親友なんだし、一生正チャンとお別れしたくないんだ。一生って思うのなら、僕は言いたいんだよ。……今すぐにとは言わない。でも、僕の花嫁さんになって?正チャン」
……繋がれた、手が熱くて。心臓が、壊れそうになる。

「僕は、正チャンに綺麗なウエディングドレスを着せてあげたいし、可愛い僕の奥さんにしてしまいたいし、将来は正チャンに僕の子供を産んで欲しいって思うんだよ。そういう風に、僕は正チャンの事が好きで、……愛しているんだよ」

キスは、優しく頬に。

親友だからほっぺはいいでしょ?と白蘭は笑って。
返事が欲しいとは、一切言わないままに。

……本当に、待っていてくれるのだと、正一は珍しく、次の講義には全然集中出来なかった。



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