02

正チャンは、高校時代にロボット大会で世界3連覇した上に、首席入学してきた、超天才。
でも、思いきり注目されているのにシャイな子で、友達を作るのはあまり上手じゃなかった。

日本という、四方を海に囲まれた箱庭みたいな、小さな平和な国そのものみたいな正チャン。
温和で優しくて、一歩引いて遠慮しているうちに、この自己主張の強いアメリカという国の大学の中では、ぽつんと置いてけぼりになってしまう。

嫌われない子。でも、強く好きだとも思って貰えない子。
ああ、君は何て可哀想なんだろう?

「僕は、こどもの頃から、勉強しか取り柄がなくて……。気の利いた話も出来ないし、だからみんな、僕と一緒に居てもつまらないと思うんです」

そんな寂しいことを、困ったような笑顔で言った正チャン。
謙遜じゃなくて、自分はつまらなくて魅力がないんだなんて、痛ましくも本気で信じ込んで俯きがちな正チャン。

日本人はいつもヘラヘラ笑ってて薄気味悪いとか言ってる奴ら、全部僕が殺しちゃっていいかなあ?
だって、優しい正チャンは、たとえ自分を大切にしてくれない人間であっても、憎むことも恨むことも、嫌うことさえも知らないんだよ?

正チャンの笑顔は、自己防衛なんだって、僕は知ってた。
だって、本当に僕は、正チャンとこの大学で出会える日を心待ちにしていて、何年も前から<様子を見に行っていた>から。

繊細な人間ほど、意地の悪い歪んだ人間のカモになる。
その反応が面白いからって、つつかれて、弄られて、エスカレートすればイジメ。
繊細で聡明な正チャンは、自分が傷付いた反応をすればするほど、もっと面白がられて非道いことをされるんだって、よく知っていた。

だから、正チャンは傷付いたときは、それは一所懸命に笑うんだ。
でも、素直な正チャンは嘘が下手くそ。傷付いているのを隠しきれずに、困ったように笑う。

予め僕は知っているつもりだったけど、現実に正ちゃんと出会ってみて、はじめてその哀しくていじらしい笑顔を見たときのリアリティは、全く違っていた。
僕は、きゅぅっと胸が痛くなって、君が本当に可哀想で。
……なのに、溢れ出すように、愛おしい、…だなんて思ったんだよ?

「僕は、つまんなくなんかないよ、正チャン」
愛おしい。そう思ったのに、この僕が、たかがハグひとつ躊躇って、結局君の癖っ毛にそっと触れて撫でてあげるのがやっとだっただなんて。
僕ってば、一体どうしちゃったんだろう?

「僕はねえ?自分で言うのも何だけど、他人に同情出来た試しなんか無いんだよ。面白いことは大好きだけど退屈は大嫌い。誰にワガママで自分勝手って言われようが、自由にしてるのが好き。……だから僕は、正チャンと一緒に居るのが楽しくて、ただ正チャンが好きだから一緒に居るんだよ」

僕は、本当の事を言ってあげただけなんだけど。
ねえ正チャン。そんなにほっぺた真っ赤にされちゃったら、何だか僕、恋の告白でもしちゃったような気分だよ?

「……そんな風に言ってくれたひとは、白蘭サンが初めてです。でも、白蘭サンが僕と居て楽しいと思ってくれるのなら、僕も嬉しいです」

ああ、やっと心から笑ってくれた、正チャン。
出会った時に、僕が友達だよって言ったら見せてくれたみたいな、はにかんだ、可愛らしくて綺麗な笑顔。

でも、僕は君を「好き」って言ったのに、スルーかい?
何だか交わされちゃったみたいで、寂しくて。胸がちくりと痛む。

なのに、君が笑ってくれた。だからいーやって、僕は大空を見上げながら本当にそう思えた。

……なんて鮮やかな現実なんだろう?
正チャン、君と出会う為に、わざわざこの大学で待っていたのは、大正解だったよ。

だって、ひともモノも全部僕には無関係の風景にしか見えない、感じられない人生を送ってきた僕にとって、君だけが僕の手に触れることが出来る、僕の心を確かに震わせてくれる、色鮮やかなリアリティだったんだ。

僕たちは、急速に仲良くなって、その距離を縮めていった。
選択している講義が違うときにはちょっと寂しいけど、同じ時にはいつも隣の席。
いつも待ち合わせをして、学食で一緒にお昼ご飯。

夜は、学生寮に住む正チャンのお部屋か、僕の日本的に言うなら億ションみたいな家で、ゲーマーな僕の趣味で戦争ごっこなゲーム作り。
バトルフィールドや戦闘員、武器をくじを引くみたいに選んで遊ぶから、僕と正チャンはそのゲームに<チョイス>という名前をつけた。

初めはひたすらふたりだけで対戦してたんだけど、正チャンが
「このゲーム、多人数参加型ヴァージョンも創ったら面白いと思いませんか?」
って言い出したとき、僕は複雑な気分だった。

確かに、多人数参加型の乱戦は、僕好みに面白そうなアイデアで。
でも正チャンは、<チョイス>を通じて、もっと交友関係を広げてみたいって思っているのが伝わってきて。

……これって、嫉妬?
ああ、何てことだろう?胸がモヤモヤするのも、ちりちり焦げるのも、正チャン、君が絡めば何でもリアル。

結局、チョイスは正チャンと僕に新しい友達と仲間を増やすのに大きく役立って、大流行。
ただ、そのゲーム仲間に、「白蘭とショーイチって、ホント仲いいよな〜」って言われた時は、僕は優越感満々で、にっこり笑って応えてあげた。

「だって、僕たち親友だもん♪ね?正チャン」

正チャンは、ちょっと驚いた顔をしたけれど、やっぱり、あのはにかんだ笑顔で笑ってくれた。
「……はい。白蘭サン」

嘘が下手な君だから。
あんなに嬉しそうに笑ってくれたのなら、君も僕が大好きだと思ってくれているんだって、信じてもいいよね?……僕だけの、正チャン。

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