01

30分だけ、時間が欲しいと、雲雀は言った。
雲雀の寝室の雲雀の布団の中で、明らかに草壁を抱き枕にしながら。

どうせ抱き枕にするのなら、こんなにゴツい男ではなくて、喜んで雲雀の夜の床にはべる侍女など、この広大な屋敷には掃いて捨てるほど居ると思うのだが。

「僕は、君しか信頼していないんだから、仕方がないよ…」

ふぁ〜あ、と無防備に、あどけない顔であくびをする雲雀は、もう早くも穏やかな眠りに入っていこうとしている。

ずいぶん前に、雲雀自身から聞いた。雲雀は木の葉の落ちる音でも目を覚ます程度に、随時眠りは浅いのだ。
それは、雲雀が昼夜問わず、殺し合いの世界に身を投じていたからなのかもしれなかったし、幼い頃に無事に助け出されたが誘拐事件に巻き込まれたことに由来するのかもしれなかったが、雲雀は多くを語ろうとしなかった。

「他の人間の体温は嫌いだ。気持ちが悪い。……でも、哲の体温は……安心する」……

何だか、誰にも懐かない仔猫を、手懐けてしまったような、そうでないような。
安心すると言われて、感激するほど嬉しいような、凹みそうに気落ちするような。

草壁は、トンファーであの世までぶっ飛ばされる覚悟で、好きだと雲雀に向かって言ってしまったことがある。

「知ってる」

というのが、雲雀の返事で、草壁は口から葉っぱを取り落とし、半開きの口から魂が抜けそうになった。

「君の気持ちは、主従愛を逸脱した、多分恋愛感情なんだろうとも思う。でも、僕は恋愛をしたことがないから、君と同じ気持ちでは多分答えられない」

失恋の覚悟は出来ていたくせに、告白も死ぬ気でしたくせに、どういうわけか好きバレの可能性は全く考えていなかったという間抜けに、草壁は今なら羞恥心で死ねると思った。

何故なら本当に、必死で隠してきたつもりだったからだ。
清潔で潔癖な雲雀に、そんな気持ちを知られたら、雲雀の美しい黒い瞳は嫌悪の色を宿し、草壁から風紀副委員長の座を、学校の中で一番雲雀の傍に居られるという特権を、取り上げてしまうだろうと思って。

それでも告白などという、かなり思い切った事が出来たのは、卒業まであと半年を切ってしまい、春以降に自分が雲雀の傍に居ることはまずないという、切迫感の所為だった。
何故なら雲雀は、天才的な戦闘センスだけではなく、天才的な頭脳も持っていて、草壁と同じ進学先を選ぶとも思えなかったからだ。

ただでさえ、男でありながら大抵の美女など霞んでしまうレベルのオリエンタルビューティーであるのに。
雲雀自身は群れるのが大嫌いであるのにもかかわらず、それでも人を惹き付けて止まないカリスマを搭載しているのに。

天は二物を与えずとか言ったバカはどいつだと、小一時間問い詰めたい。

「知らない気持ちを、君に与えることは出来ない。でも、僕はどうやら、君を失いたくないようだ」

雲雀の言葉に草壁は現実に引き戻され、目をしばたいて雲雀を見つめると、雲雀自身も自分で自分が良く分かりません的に、可愛らしく小首を傾げているところだった。

「……どうしてだろうね?」
「いや、それむしろ、オレが知りたいくらいなんですが」
「君、カミカゼの如く見事玉砕の覚悟で、僕を好きだなんて言いだしたんだろうけど。僕は、君に玉砕されては困るのさ」


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