01

オレが彼女に出会ったのは、並盛小学校に入学する直前の、春休みのことだった。

7歳までの子供は天使だ、と言った教育者が居たそうだが、オレも当時はそういう純粋でけなげでいたいけな子供だったのだろう。

つまり7歳までは、子供は親がどんな親であっても無条件に求め、無条件に慕い、無条件に愛するのだそうだ。
オレは11月生まれなので、小学2年の11月9日までは、<7歳までの子供>だったのだし、確かにグレても居なかった。

オレがグレ始めたのは、小学校でも難しい学年と言われる中学年、つまり3年生頃からだったのだから。
体格の良かったオレは、その頃には6年とケンカしても殴り飛ばせるほどの悪ガキで、実際に6年になる頃には、老け顔と合わさって小学生には見えず、夜中には高校不良や暴走族の連中と群れていた。

オレの両親は、どちらも雲雀家という名家で代々使用人を務めていた人間で、しかも当主とその奥方に直接仕えていたので、多忙であった。

要するに、オレはかなり放置気味に育てられたというか育てられもしなかったというか、
……だいたい、幼稚園の卒園式に親も誰も来なかっただなんて、オレひとりだった。

多分、入学式も来ないのだろう。
まだ6歳で天使だったオレは、本当は寂しかったし、悲しかったのだが、6歳にしてオレは、<諦める>ということを知っている子供だった。

(ねえ、入学式に来てよ)

オレは何度も言いかけて、結局言えなかった。
言ったって父は忙しい、と素っ気なかったであろうし、母はごめんなさいね、とやはり断るのに決まっていたのだから。

「幼稚園卒園したの?おめでと」

オレは、驚いて振り返った。
理由はふたつだ。親にすら言ってもらえなかった言葉を、聞いてしまったから。

もうひとつは、さっきまでは絶対に、そこには誰も居なかったから。

「……お前、誰だ?」
「誰だと思う?」
「知らねえよ」

6歳の天使にしてはひねくれ気味のクソガキだったオレは、何だか照れて、ぶっきらぼうに答えた。

……さほど、大きくはない桜の木だ。
植樹されて、まだ何年も経っていないような若木ではあったが、それでも3月下旬のその桜は、綺麗に満開を迎えていて。

その櫻の木の枝に、綺麗な着物を着た、綺麗な少女が、ちょこんと腰掛けていたのだ。

「……お前、その枝折れるぞ」

オレは、やはりぶっきらぼうに、でも実はそれなりに心配して言ったのだ。
クソガキであるからして、幼稚園ではいくら禁止されても敷地から脱走しては並盛山の木に登りまくっていたオレは、その桜の若木に自分がのぼったら、絶対にその細い枝はオレの体重に堪えきれずに落下するであろう事が分かったからだ。

オレと、多分似た年頃で、でもだいぶオレよりも小柄な綺麗な少女は、オレを見つめてにこりと笑った。

「僕のこと、心配してくれるんだ?」
「してねーよ、別に」

クソガキのオレは、何処までも素直じゃなかった。
そして、女物の赤い着物を着て、実はオレがばかみたいに見蕩れるくらいに綺麗で可愛い顔をしている癖に、その子は自分を<僕>と言った。


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