02

「……珍しいね。君が、こんなところで昼寝だなんて」

柔らかにそよぐ風と、ちらちらと遊ぶ木漏れ日に、僕は目を覚ました。

「ひ…ば、……り……?」
「そうだよ」

友は、僕の隣に腰を下ろしていて、微笑んだ。

「確かにしばらく会っていなかったけど、僕に名前を確認しなければならないほどだったかい?」
「……いいえ」

僕は、友に手を伸ばした。
震える手で、闇夜の色の衣の袖を、そっと握った。

僕は君を無二の親友と思っていて、君も僕を単なる友人だとは思ってくれているようだけど。
君は、相手が誰であれ、触れられることを嫌うから。

「震えているんだね。悪い夢でもみたの?」
「…………!」

驚いた。
遠慮して、袖を掴んだぼくの手を、彼のあたたかい手が、そっと包み込んでくれたから。

「何も、怖いことなど有りはしないよ。ここは、現実だ。そして、今此処に居るのは……君の傍にいるのは、僕だ」

友は、暗に、僕を脅かすものは、全て殺してでも僕を守ると言っている。

……それが、告天子の、友情の示し方だった。

告天子は、強い。
彼は、自分自身の強さに、絶対の誇りと自信とを持っていた。

(僕は、何ものにも負けやしないよ。……相手が、神であってもね)

真っ先に、天のいかずちに打たれても可笑しくないようなことを、平気で口にした。
きっとその言葉は、無数の耳を持つ神には聞こえているはずなのに、神は告天子を殺さない。

神は、この天界一の跳ねっ返りを、掌の上で愛でていらっしゃるのだ。

その証拠に、告天子は僕以外のものにとっては、恐ろしい死神だった。
神が、わざわざ、そのように計らったのだ。

天使は、文字通り、天の御使いであるに過ぎない。
生きとし生けるものの命に、生を与えるのか、死を与えるのかは、神の領域であって、御使いごときは関わってはならない。

しかし、闇夜の髪と瞳、濡れたように黒い翼を持って生まれた彼を、神は面白がった。
そして、特例として、告天子に死神の地位を与えたのだ。
それが何ものであっても、告天子は好きにその命を奪ってもよい。
奪うのに理由など要らぬ、気紛れでも構わぬと、神は笑った。

それは、神が、僕に執心するのとはまた別の形で、告天子を特別に愛していると言うことだ。
だって、神の計らいは、告天子から、告天子自身以外の、ほとんど全てのものを奪ったのだから。

皆、告天子の力と地位を怖れて、告天子に近付かない。
彼は、誰よりも孤独になった。

(……君を、僕の友達だと思ってもいいですか?)

初めて、僕が彼と出会ったのは、天宮の、中庭だった。……ごく限られたものしか足を踏み入れることは許されていない、瑠璃(ラピスラズリ)と玻璃(水晶)とで作られた庭。

僕は、軟禁されていた。
神は時々、こうして僕を閉じ込める。愛していると言って。
僕は外界の全てのものと切り離され、神の愛だけに応えなければならない。

……僕ほど、神に愛された者は居ない。
瑠璃と同じ瞳をしていると言って、同じ音の「翠雀」(ルリ)という名を授けられた。

一見黒く見える僕の髪さえも、夜空のような美しい青を含んでいると言って、神の指は、僕の髪を梳くのがお気に入りだった。

……なのに、僕は、寂しかった。

僕ほど愛されている者は居ないのに。

それでも。

どうして、この心の穴は、埋まらない?

……僕は、神の愛という、眩しいものをこの身に受けすぎて、気が触れてしまったのだろうか?

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