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――きらい。
パパなんて、きらい。
だって、パパの手はいっつもガサガサだし、いつも汗くさいし、きたない作業服ばっかり着てるんだもん。
友達のパパたちみたいに、きれいなスーツを着ないし、いつも決まった時間に家を出るわけじゃない。
あたしが学校から帰ってきても寝ている時もあるし、夜、眠っている間に出かけてしまっている時もある。
パパはあたしたちのためにがんばってくれてるんだよってママは言うけど。
だけど。
……パパなんて、きらい……。
朝ごはんの席に着くと、めずらしくパパが新聞を読みながら座っていた。
なんでいるの?ってびっくりして、モヤモヤとしたいやな気持ちになる。
髪の毛には寝ぐせをつけたまま、長いあいだ着てヨレヨレになったスウェット姿で。
サエちゃん家のパパは、いっつもパリッとアイロンのかかった真っ白いワイシャツ姿で朝ご飯の席にいるっていうのに。
あたしがぼんやりと立っていることに気づいたパパが、
「おはよう、ミヤ」
と笑ったけれど、笑い返す気になんてならなくて、あたしは聞こえないくらいの小さな声で口をもごもご動かすと、わざと大きな音を立ててイスを引いた。
おみそ汁の入ったお椀をテーブルに置きながら、
「元気ないわね」
ママが言う。
朝からパパの顔を見たからって言いたいけど、そう言うとママが悲しそうな顔をするから、
「……べつに」
ってママにまで機嫌の悪い声で言ってしまって、なんてあたしはいやな子なんだろうってまたモヤモヤのゲージがたまっていく。
昔は、今よりもっと小さい頃は、パパのことをきらいだなんて思わなかったのに。
どうしてだろう。
いつから、あたしはこんないやな子になっちゃったんだろう。
だけど、おみそ汁をズルズル音を立てながら飲んだり、ごはん中なのにおならをしたり、ボリボリと腕をかきながらごはんを食べたり、そんなパパの姿に、なんだかとってもイライラしちゃうんだ。
小さいことがすごく大きく感じて、ものすごく気になって。……イライラしちゃう。
あ、ほらまた音を立てておみそ汁!
「……パパ、それやめてって言ったよね」
「そうだっけ?」
機嫌悪く言っても、パパはとぼけた顔。
そういうところが、またイライラする。
「ミヤ、カルシウム足りてないんじゃないか? 今度、ニボシでも買ってくるかー」
わははって笑うパパに、またイライラモヤモヤゲージは上昇。
もうやだ!
「……学校行ってくる!」
思いっきり大きな音を立てて立ち上がると、ランドセルをつかんだ。
「あ、再来週の卒業式、パパ行けるからなー」
あたしの気持ちなんか知らないパパの明るい声が、背中から追いかけてきた。
来なくていいのに……!
答えるかわりに、勢い良く玄関の扉を閉めた。