寒椿
10/13



それは、雪を踏みしめる音にも似た、



****



さくり、さくり。
昨日積もった雪が未だ解けぬまま。
空は雲ひとつ無い青空なのに、吐く息は驚くほど白く。
眼前に広がる無垢の塊のような真白い雪は光を反射して痛いくらいに輝き。

僕は。
僕は、その無垢の真白き塊を汚すように、道なき道に足跡をつける。
昨日、朝から降り続いた雪は夜半になってもやむ気配を見せず、僕が外へ出ることを阻んだ。
濃灰の厚い雲に覆われてその姿を見ることは叶わなかったけれど、本来であれば望月の夜。
――約束の、夜。
狂おしいほどに愛おしい、僕の双子との逢瀬の夜。
その奪われてしまった時間を埋めるかのように、僕は歩を早める。
ぴゅうっと冷たい風が頬を突き刺すようで、僕は首に巻いていた臙脂色のマフラーに顔を埋めた。

さく、さく、さく、さくさくさくさく。

最初はゆっくりだった僕の足音が、次第に速さを増していく。
高まる気持ちとそれは比例して。
頭ではないどこかで、「僕」が叫んでいる。

速く! 速く!! 速く!!!

双子との出逢いは、偶然――否、必然――否、「運命」と呼ぶのがもっともふさわしいのかもしれない。
暗い、紫色の薄靄が立ち込める廃墟の中で、僕らは出逢った。
空がゆっくりと白み始め、朝を迎えようとする時間。
目当ての「品」を手に入れた僕は、ここにいた痕跡全てを消して、立ち去ろうとしていた。
何か一つでも残っていれば、全ては終わりだ。
神経が研ぎ澄まされて、焦りとも苛立ちとも高揚感ともつかぬ何かが僕を支配していた。
ピリピリと肌の上を走る緊張感。
不意に聞こえた物音に、僕の全身が震えた。
全身の毛穴が開いたような気がした。
背中を、つ、と流れ落ちる一筋の汗がやたらと冷たかったのを覚えている。
覚悟を決めて、恐る恐る振り返る。
入口に立っていたのは、まさに「理想」の具現そのもの。

――人形が、そこには立っていた。

それも、一対の。
白と黒。
オセロのコマのように、正反対の。
皮膚の下全てが透けて見えるのではないかというほどの白い肌に、ふわふわとまるで綿菓子のように揺れる金糸の髪。
レースがたくさんあしらわれた白いドレスと、黒いドレスを身につけた、同じ顔の――少女――なのだと、生きているのだと気づくのには随分と時間がかかった。
僕は自分の行いが露見してしまうのも忘れて、しばしその姿に見入っていた。
長い、長い……本当は、瞬きをするだけの時間かもしれない。
それでも、朝靄の中に浮かぶその姿は、僕の目と心に焼きついた。
「あなたも、仲間なの?」
鈴のなるようなその声が、僕を現実へと引き戻した。

 

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -