いつか忘れた頃に、また。
今年の夏は例年より暑いそうだ、
そう柳が言っていたのは5月頃の話だっただろうか。
その時すでに暑くて部活していたら倒れそうだったのに。
『何この暑さ…』
8月上旬である今日、私は自由参加の補習に足を運んでいた。
自由参加なのだから、と行くのを止めようかとも考えたが、母に行ってこいと家を追い出された。
『三年生なんだから…当たり前、か』
受験生なのに塾にも行かず、通信教育なども受けていない私は、周りからすれば相当異例らしい。
『テニス部だって、同じだと思うんだけどなあ…』
学校に着いて下駄箱から上履きを取り出し、そう呟いた瞬間。
「テニス部って俺らのこと?」
『は、?…っま、丸井!』
「よっ!望月サン」
突然の声に振り返れば、そこには三年になって初めて同じクラスになった丸井ブン太がいた。
『…吃驚させないでよ』
「悪ぃ、テニス部って聞こえたからさ」
『…あー、独り言まで聞かれたのか』
なんて恥ずかしい。
まあ、内容的に全然セーフだから良かったものの、これじゃただの変人じゃないか。
『うーん、…あたし塾とか通信教育とかしてなくてさ』
「おう」
『周りはみんなやってて、あたしは異例なんだって』
「…ふーん、そっか」
『でも、テニス部はまだ試合続いてるし、塾行ってるーとか聞かないからさ』
同じなのにね、
私がそう言うと丸井は、確かに、と言葉を漏らした。
「でも、アレだよなー。俺はともかくとしてさ、ウチの人たち頭いいからわざわざやらなくても大丈夫そうっつーか」
『なんかズルイよね、みんな』
「俺もさ、今日久々の休みだったのに親に追い出されて、勉強してこい、だってさ」
『ウチと同じだー、変なの』
ふふっ、と自然に笑みが零れた。
すると釣られたように丸井も笑い出す。
「ま、親に迷惑かけらんねえかんなー」
『あ、やっぱり?あたしもそう』
「ははっ、俺ら意外と気が合うな」
『みたいだね』
下駄箱から教室に着いても、補習が始まるまで私たちの会話は途絶えなかった。
きっと私たちは勉強がしたくて進学するんじゃないと思う。
中には勉強目当ての人もいるかもしれないけど、私と丸井は違うと思う。
やりたいことはある、けどそれは将来的なことで今はまだ抽象的過ぎる。
でもその道程を何もしないでいるわけには行かなくて、私たちは進学する。
それは自分の為であり、自分を支えてくれる人の為でもある。
今は受験生という重い肩書きを背負って、ひたすら勉強している毎日だけど、
受験が終わって、大人になって、いつか忘れた頃にまた、今日の日のことを笑って話せたらいいなと思う。
その時はまた丸井と一緒に。
そんなことを考える私の夏休み。
いつか忘れた頃に、また。
(今日生まれたこの感情と、)(進学先が同じことは)(もう少し秘密のままでいよう)
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よくよく考えれば、
立海はエスカレーター式でした←
進学は親孝行、他人孝行の一環じゃないだろうか、というお話。
ブンちゃんは長男なので周りのことをよく考えてるんじゃないかと、勝手な判断。
企画 夏色グラフィティ様に提出。
2011/08/19
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