満開の桜の木の下で、二人並んで息をする



久しぶりに休みが合った。
私は吹奏楽部で、柳はテニス部で。

うちの学校はどの部活もそれなりに良い成績を修めてて、練習もハードだし休みもない。
だからこの奇跡を大切にしたいわけなんだけど。



『え、』

「本当にすまない、優花」

『…いや、いいよ、大丈夫』

「大丈夫じゃないだろう、昼前には姉さんが帰ってくる。それまでの間だけ辛抱してくれないか?」

『わかった。急がなくていいからね、また後で』

「ああ、また」


電話が切れて携帯をベッドへ放り投げる。
朝から出掛けようといろいろ楽しみにしていたのだけれど、どうやら突然従兄弟たちの面倒を見て欲しいと頼まれたようで。
柳は少し家族の頼みに弱いところがあるななんて、きっと私しか気づいてないし、知らないことだ。



『…それまでの時間どうしよっかな』


着ていく服も事前に決めてしまったし、朝ごはんも食べ終えてるし。特にやることはない。
ほんの何時間かしかないし、出かけて帰ってくるには少し足りない。

ああ、そういえば。
私はいいことを思いついた。


――――――


すまない、そう言って柳が私の家に到着したのは11時過ぎだった。
私との予定があることをお姉さんにメールしたら早めに帰ってきてくれた、とのことだったけどそれにしても早過ぎるから全力疾走できてくれたに違いない。




「遅れてきたお詫びとしてどこへでも連れていこう、どこか行きたいところは?」

『じゃあ、お花見行こ!』

「花見、か…優花はそれでいいのか?」

『ふふ、少し荷物持ってくれればそれでいいよ?』



きっと柳のことだからちょっとお高い流行りのお店とか、テーマパークとか言っても料金払うくらいの気持ちでいてくれたんだろうけど、不思議顔の柳をよそに私は柳の驚く顔を思い浮かべながら柳と花見へ出かけたのだった。



『綺麗だね』

「ああ。今日来なければもうすぐ散っていたかもしれないな」

『来て正解だったでしょ?』

「それはそうかもしれないな…ただ、本当に花見でよかったのか?」

『んー、柳と一緒にいれればどこでもいいよ』

「…ほう、珍しいな」

『なんたって今日は機嫌いいからね!』

「遅刻してきたのにか?」



普段からあんまり素直に気持ちを伝えられるタイプじゃないけど、今日くらいは満開の桜に免じていいかなって気がしたから。
それに。


『柳、お腹空いてるんじゃない?』

「あ、ああ…唐突だな、どこか入るか?」

『荷物の中にシートあるからそれ敷いて桜見ながらご飯食べよ!』

「優花、これは…」




柳に持ってもらった荷物にレジャーシートと、待ってる間に作ったお弁当を詰め込んで。
たぶん柳はお昼ご飯も食べずに急いで来てくれる気がしてたから。

お花見だし、ちょうどいいかと思って。
私がそう言えば柳は微笑んだ。




『…よく俺が昼を食べずに来ると分かったな』

「まあ、少し驚く顔が見たくて賭けみたいなとこもあったんだけどね」

『驚いたさ、優花がこんなに料理上手とはな』

「お口に合ったようで、よかった」



作った甲斐があった、と微笑んだ。






満開の桜の木の下で、二人並んで息をする
(来年もまた、一緒に見に来ようか)



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久しぶりのメイン更新です。
学校の近くが桜の名所で柳とお花見の話書きたいなー、と思って書いてみました。

…絵になるだろうな、柳が。


presentに置いてないですが、らるどくんに捧げます。




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